地下迷宮の最下層に接続されていた黒の鏡の向こうの暗黒空間は二つの精神体を失い閉じられた。暗黒空間はもともとこの観測可能な銀河にあったのか、それとも別の銀河か定かではない
太古の黒辰、青辰は火星の第二の月に生存していた十夜族の別種であるが、第一の月に生存していた十夜族は火星を離れ地球の周回軌道に入ったが、火星離脱で重力バランスが崩れ第二の月は火星へと落ちる道を辿った。
火星へと落ちる間際、肉体が消滅する間際に無数に存在する虚無のマイクロバブルの暗黒空間の一粒に兄妹の思念波が纏わりついた。色が付いた一粒の暗黒空間は他のマイクロバブルの暗黒空間とは違い、同じ色を持つ暗黒空間をずっと探し求めた。中に閉じ込められた兄妹にとっては永遠の時間のように思えた。
その一粒の暗黒空間が現実世界に捉えられたのが、今から1万年前の早神令時がいた時代の2025年の京都直下型地震での京都北部が完全崩壊したあの日から始まる。その時空の接触点からこの時代に飛ばされて既に一往復していた。
兄妹はその接触点より覚醒し、やっと今に繋がったのであった。兄の黒辰は
兄弟の容姿は早神令時の記憶から構成されたものであった。
「お前達はこの地で生きていくのだ。この地球の寿命はまだまだ尽きない。もはや他族と争い覇権を得るなどなんの意味もない」妹の青辰は俺の言葉に集中していた。まるで、
「この地下迷宮を出れば、火星の第一の月の子孫に会えるだろう。AIアルフ・ライラと共に行け」
「我らも一緒に地上に戻るとするか」黄龍キトラはレアフルに思念波を送った。
「そうですね、令時さんの時代に行ってもこの体だとどうにもならないもの」キトラが疑似思念波で応答した。
キトラの疑似思念波を捕捉した黒辰は一瞬ビクッとした。まだまだ思念波には慣れておらず異質な疑似思念波に少し戸惑ったようだ。
「ワタシは地上にはもどらないからネ。レイジといっしょに行くのだから」
「これで最後の時空ジャンプだと。これを
時空ジャンプが発動しようとしていた、前回は時空の神宝と反時空の神宝との対消滅で始祖アルフ・ライラが憑依した唐條と共に元の時代に戻れたが、今回はそうのようなアイテム自体なかった。そもそも対消滅したのであるから。
それでも発動条件は揃っていた。莫大なエネルギーは必要はないのだ。ここには粒状のマイクロバブルの暗黒空間がいくらでもあるのだ。ただそれは虚無であり意識できないだけである。
黒辰、青辰の兄妹が捕捉されていたマイクロバブルの暗黒空間を一時、俺は認識できた。それだけで十分である。思念波をマイクロバブルの暗黒空間に纏わりさせまとめあげた。
暗黒空間の無から青白い光が集合し始め、俺と、葵それに
何も無い内部から外の空間が歪んで見えていた。キトラ、レアフル、黒辰、青辰の兄妹の姿が薄れていくが、意識は保てた、フィボナッチ数列時間を遡り着地時間は運任せであった。
「爺、令時さんを捕捉したわ! 帰ってくる!」九条美香が叔父の九条慎太郎に叫んだ。
「儂の生きている間にやっと戻ってくるのか。時空移動の駆動方法を会得したのだな。楽しみだ」九条慎太郎はベットに横たわりながら言った。
「ここにマスターと葵が実体化します。それと
成都にて、
「帰還したようね。時空移動の駆動方法を聞きに日本に行かなければ。」AIアルフ・ライラに統合された
三つの思念波はかつて京都にあった早神令時の会社の統合オペレーション室に実体化した。
黒辰、青辰の兄妹が経験したように、それは永遠の時間であり一瞬の時間でもあった。
「戻れたようだ」
「はい。マスタ」
「モドッタネ」
「これから、また一万年の未来が始まるのだ。それ以降の未来は彼らの手にある」
「もう時空ジャンプはできないな。この時代は思念波のエネルギーが弱すぎる」
「今の時代が一番ダヨ。レイジ」
「ふん、3匹のやつらも一緒に来たのか? どうやって実体化したのか。まあ、構わないか」
蛍胞子はキノコ等の胞子ではなかった。それは精神体である……

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