時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第21話:成都に向けて

AI幻覺(ファルゥー)は無事何事もなく起動した。

上海から1,600km西にある成都の更に西に陣取っているサバクトビバッタ群体の集積疑似思念波の受信情報を随時暗号化し、

光回線で京都のAI幻影(ファントム)にデータ送信した。

京都のAI幻影(ファントム)からサバクトビバッタ群体の中心までは距離にして3,000km離れており、中継点の上海での集積疑似思念波の収集データと突き合わせができるので、今回は新たな発見が有るかもしれない。

今までは、京都府下内でAI幻影(ファントム)が時空無線機で思念波を探索してきたが、その中でどれが昆虫種が発する集積疑似思念波であるか確定できないでいた。

そのため、AI幻影(ファントム)にも改造が加えられている、九条グループが開発した時空受信機を集積疑似思念波を直接受信するために入力デバイスに追加していた。

距離がワールドワイドレベルで違う二元で同時解析できるので、集積疑似思念波を思われる思念波の波長と強度を調べることで、今まで、雑音レベルであった信号が実は集積疑似思念波であると確定できるのである。

鉱物結晶学専門の九条美香は、自身が開発した集積疑似思念波カウンターというものを持参してきている。

時空受信機の携帯版で探索範囲は数kmしかないが、サバクトビバッタ群体の傍まで行けば十分その中心にいる特殊な一匹を見つけることができる。

「では、これからスタッフミーティングを行う」これには時空無線機に興味を持った周社長も加わった。

「はい!」

「何でしょうか。九条美香さん」

「私、成都は初めてです」

「はい、それで?」

「マスター、私も初めてです」

「葵君、それで?」

「ワタシ、チュウゴウはじめて。見て周りたい」

「そいうことか。成都にいってもショッピングは無しだから。学術的に観るべき場所はあるかね郭君」

「『金沙遺址博物館』という博物館があり、ここは四川文明の遺跡から出土した遺物が展示されているので、 海外にはこの遺物は公開されておらず、是非、見た方が良いです。

もうひとつ『杜甫草堂』という草木に覆われた公園があります。特に朝は鳥のさえずりが心地よく空に響き聞こえてきて、精神を研ぎ澄ますにはもってこいの場所です。

サバクトビバッタ群体は今、『杜甫草堂』よりまだ西に500kmの位置ですので十分余裕があります」

「そうだな、成都現地では郭君に任せるとする。『杜甫草堂』ってサバクトビバッタ群体の恰好の食糧源じゃなのか?」この問いに昆虫生態学の九条慎太郎がこたえた。

「『杜甫草堂』が群体バッタに襲われたらひとたまりもないだろうが、群体バッタはこういう点在した草木のある公園は襲わない。群体を維持するには食料が乏しいのである。

一時的には凌げるが下手をすると全滅してしまうからである」

「そうですか、サバクトビバッタ群体の移動ルートはどうなるか、予測できますか九条殿」

「それは、これから解析ですな。最悪、現地で目視で追うことになるかも。何としても特殊な一匹を確保して持って帰らないと。

目視探索なら、美香の集積疑似思念波カウンターが役に立つはずだ」

昆虫種の思念波で僅かだが意思疎通ができる蜂妖精女王の十三夜であるが、流石にここから1,600kmも離れた場所のサバクトビバッタ群体の集積疑似思念波は感じとれない。やはり現地まで行けば九条美香の作ったカウンター同様に役に立つであるろう。

「我々も目的は、

一、サバクトビバッタ群体を統括している特殊な一匹を捕獲し日本に持ち帰ること。

二、現地での集積疑似思念波のデータ収集と速やかにAI幻覺(ファルゥー)に送ること。

である。尚、不測の事態に備えること。

”特殊な一匹”が未知な力を出し我々に何か災いをもたらすかもしれない。警戒を怠らないように、九条殿頼みます。

中国政府機関に傍受された場合の対処は、周社長に頼みます」

サバクトビバッタ群体は、成都の北の九寨溝(きゅうさいこう)400kmに迫っていた。

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