時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第26話:九寨溝に向けて

 九条と我々一行はニッサンキャラバンで陸路、黄龍地区から九寨溝(きゅうさいこう)に向けて出発した。

 運転は郭君である。道路は舗装されておらず途中渓谷の合間を縫うように崖っぷちを走る。

 未来世では、牛ドラゴンの十五夜(かぐや)や平安時代風に着飾った牛車を颯のごとく牽引していたが、翡翠の石畳の路面と鉄の車輪から伝わる振動はそれ程でもなく、むしろ心地良い揺れだった。

 例えて言うならローカル線の電車に乗って揺られているような感じだった。

 それに比べて、この車の上下の振動は尋常ではなかった。車の天井に頭をぶつけそうになるし、サスペンションが本当機能しているのか疑う程の振動である。十三夜(つきみ)は、むしろこちらの方のスリリングな反動を楽しんでいるようであった。

 九条美香はあいかわらず集積疑似思念波カウンターを進行方向の北西に向けて情報収集しているようだ。

 そんなにずっと向けていなくてもいいのにと思うほどである。悪路の反動で天井に頭をぶつけそうになっても集積疑似思念波カウンターは北西を向けている。

「美香さん、そんなにずっと集積疑似思念波カウンターを向けていなくても良いのでは?」つい俺は下の名前で呼んでしまった。

 ふっと九条美香は集積疑似思念波カウンターを膝の上に置き俺を見つめた。

「そうですわね。要所要所でいいですよね。つい癖で実験データは記録始めたら終わりまで採るってしみついていて」

「まあ、その性格であったからこそ、京都界隈の原始思念波を捕捉できたんだがね」九条慎太郎は美香を見て言った。

 九条慎太郎から聞いた話では、翡翠を格子様にピラミッド状に組み込んだ自動運転用のガイドマーカーに一定の電磁ノイズが捕捉されるのであるが当初はそれは単なるノイズで無視していたが、京都の碁盤目状の道路に設置したガイドマーカーから送られてくる電磁ノイズを毎日分析しているとあることに気がついたのである。

 九条美香は当初、それを位置空間ノイズと呼んでいた。実はそれが原始思念波である。この位置空間ノイズの概念は俺が会社で開発した時空無線機の研究会社から一部着想を得たものであった。俺の機密事項の研究開発は漏れていたのである。

 まあ、それでも俺にもメリットがあり今回の昆虫系の集積疑似思念波の情報を得られるので相互に研究データを補完できるので、WIN,WINであることは確かである。

 最近は、俺は、時空位相の被害者であり当事者でもあるのではないかと危惧するようになった。

今 この時点の原始思念波、集積疑似思念波が未来世である1万年後の始点ではないかと思う。

 このまま進んでいくと折角、未来世でフィボナッチ数列順に発生してた時空位相の連環をフィボナッチ数列二十一番目の一万九四六年で絶ったのに、再始動させてしまわないかと思うと恐怖であり残念な気持ちになる。

 果たして、未来世に存在する十六夜(いざよい)の救出は正しい行動なのだろうかと。

「マスター、ほらずっと北西の山の空が黒くて移動しているような。雲にしては移動が速いですね。

目測できるぐらですから」

「レイジ、あの黒雲からイヤな感じの思念波を感じる」

「あれこそは、我々が目指す第三世代のサバクトビバッタ群体だな。まだまだ遠いのにここから視認できるとは、

 相当大規模に広がっているようだ。第一、第二世代の比ではない数だ」

「レイジ、あのバッタの黒雲からは狂った敵意を感じる」

 十三夜(つきみ)は、今までとは違って顔が強張っていた。未来世の体長十メートルの昆虫魔物と対峙した時でもそんな顔をしなかった。

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 集積疑似思念波カウンターによる探索と目視による特殊なサバクトビバッタの位置特定が始まった。

 上海AI幻覺(ファルゥー)と京都AI幻影(ファントム)の解析も順調に進んでいた。

 後は現場へと突入するばかりだ。