時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第64話:再会、九条リンとハズキ

眼下に広がる緑は翡翠が点在する森である。未来世に時空位相した時となんら変わらない光景だった。

その翡翠の森に南北に連なる1本の交易用の街路が走っている。山城から水度、宇治、伏見集落に至る路である。

頭上に緑に発光する翡翠ナノ粒子の光跡はその街路に沿っていた。その最先端は水度集落跡を越えて宇治集落に到達しようとしていた。

「やつは宇治集落に向かっているようだ」

「レイジ、ドウシテ、ワカルの?」

「北上するなら直線コースを飛べば良いのに、街路にそって大きく弧を描いている。俺らは直線で宇治集落に向かうぞ!」

 宇治集落には九条リンとハズキの姉弟がいる。どうしているだろうかあれから三年が経っている。

「リン姉さま、もうこの辺りには魔物はいなくなりましたね」

「そうですねハズキ。お前は早神様から頂いた神流星刀を使えこなせるようになりましたね。我ら姉弟とあの上鳥羽のサク君で山城から宇治までは制圧できています。それよりは北方方面は新たな魔物の襲撃で押し返されてしまいました」

「あの飛蝗はいったい突然どこから来たのでしょうか?」

十六夜(いざよい)様によると大陸から海を渡ってきたらしいわ。今、そのことのほかを調べに行っておられます」

「海を渡るには相当飛翔しなければならないのに」

「上空の風向きが変わったのですよ。それに乗ってきたとのことですわ」

「早神様なら、あんなの紅のドラゴンの『神炎皇のブレス』で一掃できるのに。もうこちらに戻って来られないのでしょうか?」

「ハズキ、早神様は元々はこの時代の方ではないのです。でも早神様はおっしゃいました、剣の腕を更に鍛錬して待つようにと。必ず顕現なされます。第二十一代の令位守護者の早神令時様として」

「あ、母上からだ。"すぐに鳳凰堂に戻りなさい"だって」ハズキは石版に表示されたメッセージを見て言った。

「何か、様子がおかしいですわ。ほら北の黒いばらばらだった飛蝗の群体が一か所に集まってきています。南の空にも虹色に光る何かが迫ってきてますわ。急ぎましょう、ハズキ」

 鳳凰堂の最奥の間で、石版を前にしての九条サクラが鎮座していた。リンとハズキの母である。

「これをごらんなさい」金色の九尾の狐の霊獣人の九条サクラが石版に表示されている光点を差しながら言った。

「お母さま、この光点群は飛蝗の群体ですね。それと南からの光点はなんでしょうか?」飛蝗の群体を実際に目撃していたリンが言った。

十六夜(いざよい)様が言っておられた甲虫王スカラベの子孫の者と思われる。思念波のパターンが甲虫王スカラベと酷似しておる。それよりも更に南の光点だ」

「これは……、この信号パターンはもしや……」

「そうだ、第二十一代の令位守護者の早神令時様に違いない。甲虫王スカラベの子孫を追っておられるようだ。リン、ハズキ準備じゃ!」

「はい。お母さま」

 リンとハズキは石版を持って宇治集落の城門まで急いだ。

十三夜(つきみ)十六夜(いざよい)十五夜(かぐや)の思念波は感じられるか?」

「コノあたりにはイナイな。ずっと西に日が沈むぐらい遠い。それとスカラベの更に北に別の魔物群を感じる。

 過去の飛蝗の群体と同じ感じ!」十三夜(つきみ)は紅のドラゴンに変幻している令時の頭を周回しながら言った・

「そうか、北の空の黒いのは雨雲ではないのだな。面倒なことになってるな」

「あんなノ、『神炎皇のブレス』で薙ぎ払えばイイノヨ。ここでは問題ナイ」十三夜(つきみ)はもう問題が解決したかのようになぜか張り切っているようだった。

「そうだな、まず葵を九条サクラ殿に預かって頂く事にしよう。城門が見えてきた」

 俺は、スマートフォンで九条サクラにメッセージを打った。

”城門に参上致します。黒い雨雲はお任せあれ。令時”