時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
73/100

第72話:飛翔混成部隊

プラチナ甲虫スカラベを引き連れて、十夜族姉妹と俺は大陸に向かうことになった。

スカラベを、この山城の地に放置しておくよりも、傍に付けておいた方が制御も効くだろうし、蛍胞子の神経毒による即死級の発動権限を十三夜(つきみ)が握っていから、

言うことを効くだろう。

まだ信用できないが、昆虫の思考は未だよくわからない。

山城の地から大陸へ。十六夜(いざよい)十五夜(かぐや)は再び飛蝗族の本体を目指した。

俺と十三夜(つきみ)とプラチナ甲虫スカラベは初めて海を越えて大陸への飛行である。

全く統一性のとれていない飛行部隊編成となった。

先頭は、ペガサスの翼をまとう牛ドラゴンのキメラ体の十五夜(かぐや)

中部に、プラチナ甲虫スカラベ、その上部に蜂女王の十三夜(つきみ)

後部に、竜の翼を有する紅のドラゴンである俺だ、背には十六夜(いざよい)を乗せている。

翼の種はそれぞれ全く違うが飛翔方法は実は同じである。空気力学は二の次なのだ。

大気に充満している思念波を自身の体軸に流して流れに乗っているだけで飛べるのだ。

飛翔速度はその体軸に流れる総量と移動速度によって決定される。

翼は空気力学的には飾りであるが、思念波を制御するのに効果的に作用する。

翼の大きさは思念波の総量、羽ばたきの振動数は思念波の移動量に補助的に作用している。

この中で十三夜(つきみ)の蜂女王形態が一番小さく羽の長さ20cm程度であるが、羽ばたきの1秒間の振動数は千を超え、飛翔速度は他の者に劣らない。

それにてしても、先頭を飛翔する十五夜(かぐや)は、音速を超える。

もともと地上を高速で駆けることができ、ペガサスの翼を得ることで飛翔にもそのスキルが活かされているようだ。

更に、この飛翔メンバーである我々後続は、彼女の体軸から高速で漏れ出た思念波の影響を受け、音速まで加速されている。

俺の背に乗っている十六夜(いざよい)をこの音速に耐えるようにクレナザイトの鱗をコックピットのように変形させていた。 これもまた、異様な姿である。

「これが、音速飛翔というものか、爆発音がした後は静寂の世界だ」俺は、前方の十五夜(かぐや)に思念波を送った。

「そうでしょ、令時さん。音速を越えると、飛翔ももっと安定するんですよ」

「ギギ、これはすごい。翅の損傷など関係ないのだな」プラチナ甲虫スカラベが言った。

プラチナ甲虫スカラベは俺との過去世での戦闘で翅を一部破損して、飛翔するには不安定で、

上下左右いブレていたが今は、直線で十六夜(いざよい)の後を追えている。

まさしく、思念波による飛翔をこの昆虫も体現したということか。

十三夜(つきみ)、隊列から離れるなよ。十六夜(いざよい)の飛翔の思念波の補助がなくなる、置いてきぼりをくらうぞ!」

「ワカッタ! それにしても早いな。こんな速度で飛んだことがない。雲なんかほんの一瞬でツッキレルよ」

「我も、飛びたいな。令時の考察では翼は補助的なものであるということは、無しでも飛べるということだな。

かつて我始祖の千夜一夜(アルフ・ライラ)は人の姿で空を飛んだと言われていたが、それは本当だったのかもな」ルビー色の半透明のクレナザイトガラスの中で、十六夜(いざよい)が言った。無論思念波でである。

「そうだな、こんな高速ではないが人の姿でも飛べるはずだ」俺は、紅のドラゴンではなくて人の姿でも飛べそうな気がしてきた。ただこの世界においてはだが。

上空には四つの飛行機雲はいつまでも拡散せず直線を大空に東から西へと続いていた。

大陸の飛蝗の群体の殲滅に向かう、飛翔混成部隊であった。