金属音の足音が近づいてきていた。すでに橋の反対側まで来ているだろうが、蛍胞子の死骸の白い粉雪が舞いその姿は視認できなかった。
足音の間隔はなぜか不規則である。二拍子、四拍子、三拍子が複合した音を放っている。知り得る歩行、走行のどれにも当てはまらなかった。
この迷宮には、床を動けるものは小動物、浮遊するものは微小昆虫、胞子しかいないはず。まして、監視ロボットなどは配置されていなかったははず。前回の探索でそれは分かっていた。
なのにどうして。
「何か橋を渡ってきますわ! 早く入れて!」レアフルは渾身の力で途中で止まった扉を押し広げた。
扉が一瞬、わずかに振動し火花が飛び散って枷が外れたのか、自力で動き出した。レアフルは、強引に体を入れ込み地下六階の扉をすり抜けた。自慢の虹色の翅はもう筋傷だらけである。
「閉めて!」
葵がレアフルが通り抜けた瞬間、すかさず「閉」記号に手をかざした。扉がゆっくりとしまっていく。
未知の移動体は橋の中央まできているようで、白い粉雪が不規則に更に舞い上がっては、階下に筋を引いて落ちていくのが見えていた。
二筋、四筋、三筋の白い筋が淡い照明で滝のように落ちていく。
扉が閉まる瞬間、それは扉の前まできていた。葵はその姿を一瞬見たようである。未知の移動体は、扉向こうに置き去りになったようだが、扉を削るような音がしている
管理者に通じているのなら、苦も無く開けられるはずだが、強引に扉を破ろうとしているのだ。
「危なかったわ。私も人型に変幻できれば良いのに」レアフルは
「このまま、最下層の地下七階の最奥の部屋まで一気に走り抜けるぞ」
扉は既に穴が開き出している、先端にはドリル様のものが回転し火花が散っていた。地下七階は照明が落とされ暗黒であるが先頭はあいかわらず3匹の蛍胞子が周囲の回廊をほのかに照らしだしていた。
「マスター、私は見ました。あの移動体の一部を」
「どういうものだ?」
「それが、見えたのは顔の部分だと思うのですが、緑のフルフェイスで目はなく突起物が三つ伸びていました。見たこともない構造です。緑のフルフェイスの表面は微細ないろんな色が移動していました」
「機械かそれとも生命体か?」
「どちらでもない印象です」葵はどう表現したら良いのか困った風であった。
「最奥の部屋までたどりついたとしても、その未知の移動体に追いつかれるな、やるしかないか」
「ドウ、ヤルのか、レイジ?」
「わからん。ダブルショットガンの魔弾が通じるのかも保証できんな」
「レイジ、
「
「ソウ、オリジナルではなくてレプリカって言ってたヨ」
「俺が作ったレプリカより精巧にできてるな、本物以上だ! これを使いこなせればなんとかなるかもしれない」
遠くの方で、扉が打ち破られた音がした。例の足音が聞こえてくる。
二拍子、四拍子、三拍子…… どういう移動方式なのかさっぱり見当がつかない。
目前に最下層の最奥の部屋が見えてきた。もう少しだ。

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