時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第9話:原始思念波のネットワーク

 天変地位から時空位相され帰還後三年たってようやくこの四条界隈も、元通りの姿に戻ってきた。

 当時、京都洛中で被害を免れたのは上賀茂神社より北の地域が無傷で残っていた。行政はそこを拠点とし、順次南へと復興開発を行ったのである。

 平安京以来の洛中の碁盤目状の都市構造は再整備され、烏丸通は北大路から南は新京都駅まで完全直線で自動運転用のガイドマーカーも設置された最新の道路設備を整えられていた。

 市バスも完全自動運転で運用されている。特筆すべきは建築物の高さ制限を解除したことである。

 俺にとって物理的な変化よりも、以前は烏丸通りに見えていた落ち武者の影等はなく、今は清浄な気の流れが南北に循環しているのが感じられることである。

 

 明らかに以前とは違う。むしろ未来世で経験した翡翠の媒体によって思念波が循環する時の似たような感覚だった。

 最上級グレード翡翠が自分が所持している以外に存在しないのに、なぜ清浄な気の流れが循環しているかというと、原因は洛中の碁盤目に3メートル間隔で設置された自動運転用のガイドマーカーである。

 設計、設置者は単に自動運転用に製作したつもりだろうが、このガイドマーカーにはある物質が使われていた。

 それは長残光性蛍光体SrAl2O4である。翡翠にもSrAl2を構成する物資がありこれが清浄な気の流れである原始思念波がネットワークを構成していた。

 全く偶然の産物である。

 十三夜で普段でも人型を保てるのは、投影裸眼ネックレスを所持しているだけでなく、この原始思念波ネットワークがあるからである。

「コノセカイにも十六夜が作った雲を突き抜けるような塔が南の端にアルンダナ」

「シルエットは未来世の新京都タワーとそっくりだ。全てはこの2028年月からはじまったようだ」

「統括マネージャ、実態魔法の修練は原始思念波ネットワーク中で一番エネルギーの励起が高いところで行った方がよさそうですね」

「ふふ、そこはもうAIアルフ・ライラ+幻影で解析済みよ」 葵はテーブルに洛中の碁盤を投影させてエネルギーマップを表示した。

「2025年以前のMAPもオーバーライド表示させてくれ。エネルギーの励起が高いところは京都御所があったところか、今は立ち入り禁止で入れないな」

「マスター、洛北の上賀茂神社辺りも高密度のスポットがありますね」

「おかしいな、碁盤の中央に集まるはずなのに、洛北の上賀茂神社にもスポットができてるのか。

 では、実態魔法の修練は上賀茂神社付近の山中で適当な場所を見つけて行うことにする」

「また、変装して成りきり生態調査で潜入ですか?」葵は何か恥ずかしそうな仕草をした。

「いや、今回はサバイバルゲームスタイルだ。たしかサバイバルゲームのフィールドがあったはずだ。貸し切りもできる」

「統括マネージャ、それはいいですね! 記憶・連想実体魔法であのリボルバーやダブルショットガンを錬成しても怪しまれない」

「簡単には錬成できないかもしれないが、原始思念波があるし必ず錬成して見せるよ。それを持って十六夜を迎えに行く」

「ワタシはナニをしたらイイのかな?」

「十三夜は投影裸眼ネックレスで俺と映像を共有できるようになること」

「ワカッタ!」

 人型の十三夜だと投影裸眼ネックレスは小さすぎて首には巻けず、華奢な手首にブレスレットとして付けていた。

 不ぞろいの翡翠の不細工な投影裸眼ネックレスではあったが、ブレスレットとして十三夜の色白な手首に付けるとなかなかいい色でお洒落に見えた。

「コノ、ブレスレット、カワイイヨネ」 俺の心を見透かすように十三夜は言った。

「葵、サバイバルゲーム兼実体魔法の日程を組んでくれ。参加者は俺と信士、十三夜だ。記録解析は葵とAIの連中に任せる」

「あ~あ、ついにアルフ・ライラと幻影はAIの連中になってしまいましたか」

 AIアルフ・ライラとAI幻影はこれを聞いて不満の意思表示なのかテーブルに投影されていたMAPを一瞬消した。