上賀茂神社の東方山中には、サバイバルゲーム用のフィールドが新設されていた。
ちょうどこのエリアは、原始思念波が集合するスポットの一つである。
これも謎である、このエリアのオーナーはこのことを知らないはずなのに、なぜこの京都の北東エリアに
わざわざサバイバルゲーム場を開設したのか。あの自動運転用のガイドマーカーの設置者も後で調べないといけない案件である。
今日は、さておきこのフィールドで存分に実態魔法の修練を行うことにした。
グループ名は十夜族(TEN NIGHTS CLAN)とした。
「統括マネージャ、その自衛隊風の恰好は何なんですか?」
「いいだろ。これは昔、私が新入社員の時の自衛隊研修での駐屯地内の売店で買った
本物の自衛隊服一式なんだよ。やっと使うときがきた。技術統括の信士君!」
「似合ってます」
「だろ、研修当時もそう言われたよ」
「ワタシのフクはなんなんですかこれ?」
「あ、それか女子用の迷彩服はコスプレ用しか売ってなかったんだ。まあ敵もいないから良しとして」
「えー、でも、おへそミエテルし。カゼひくよ?」
「いや、蜂妖精女王はカゼはひかないから大丈夫」
まずは、基礎の記憶実体魔法からのおさらいだ。未来世での感覚はまだ頭の中に残像として残っている。
俺は精神を集中させ十六夜に指導されて初めて記憶実体魔法を発現できた記憶を辿った。
もちろん、触媒に使える葵から貰った比叡山の最強護符(角大師)は今も所持している。
信士は護符がなくても自身の共感覚が補助されるから問題なく記憶実体魔法を再取得できるはずだ。
数時間が経っただろうか、太陽は既に天頂に上っており日差しが林の中に差し込んで朝よりも明るくなっていた。
「できた。記憶実体魔法で最上級グレードの翡翠。しかも当時と同じく宝石になってる」
「統括マネージャ、私も出来ました。リボルバー!」
「おお、やったな信士。当時は3連リボルバーだったが、これは5連で生成できてるじゃないか」
「はい、ここの原始思念波は未来世のものより私には相性がいいようです」
「この調子でいけば連想、仮想、拡張実体魔法も取得できそうだな。あとは十三夜との思念波による映像共有だが、どこに行った十三夜は?」
「向こうの林で何か見つけたようで、行ってしまいましたが」
「また迷子にならなければいいんだが」
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ザー。
ホワイトノイズのような音とともに脳内に映像がリンクした。十三夜が見ている映像のようだ。
何んだ。スズメバチの巣じゃないか! しかも十三夜はその巣に向かって何か挑発しているような映像が頭のなかで見えた。
巣から出てきたスズメバチは十三夜を攻撃することなく、ただ頭の周りを回っているだけだった。
十三夜が振り返ってようで、十三夜から見た遠くの自分の姿影が自分の視認している景色をオーバーラップした。
不思議な感覚である。鏡の中のずっと遠くの自分を見ているような感じだった。
十三夜が戻ってくるようだ。
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「十三夜。蜂の巣の木で何をしていた」
「オハナシできるか試してミタ。この世界でも思考の伝達はできるミタイ」
「そうか、十三夜は昆虫系のキメラだったからな」
「ソウダネ、この世界では10メートルもある巨大な昆虫はいないらしいから、全部、ワタシの配下だね」
十三夜の自慢げな顔を久々に見た。配下と言っても今世の昆虫系は何か役に立つのだろうか?
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「何かしら、私の観測者以外にもう一人観測者が入ることを、AIアルフ・ライラが告げてるけど。原始思念波を理解、観測できるものしかわからないはず。統括マネージャに知らせなきゃ」

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