中国は今や経済は世界一を誇っており実質、資本主義経済の体を成していた。
しかしながら相変わらずの共産主義であり、強固に西側諸国の民主の思想を受け入れていなかった。
特に周辺の少数民族の一億人を中華思想に組み込むには共産主義で統一せざるを得ないでいる。
ここ上海は中国の四直轄市のうちの一つである、省と同格であり、金融、情報・通信関連については市独自の権限で運営されている。したがって自由主義諸国の会社は市と独自に契約することで自由な経済活動ができ、今や香港よりも上海にこぞって情報会社を進出させている。
俺はここに会社は置かず、郭の会社とオフショア契約とAI関連相互技術契約をしていた。
「レイジ、スゴイ、早いよこの地乗車! 牛ドラゴンの十五夜が牽引する牛車どころでないよ!」
十三夜はジェット機にはあまり興味はなかったが、この上海トランスラピッド、リニアモーターカーには大はしゃぎであった。浦東空港と龍陽路駅を10分とかからず行ける。最高速度430km/hである。
しかし、何度乗っても落ちつかない。前方の速度表示が300km/hを超えるあたりから緊張感が増してくる。
上海のリニアは常電導磁気浮上の為、車体を浮上させるのに高さは1cmしかない。
地震が来たら一発アウトのような気がして、落ち着かないのである。
「レイジ、怖いのか?」
「いや、まあ日本も後2年で、超電導磁気浮上式で浮上10cmあるし、速度の500km/hオーバだよ」
「チョウデンドウ? もっとハヤクなるのか」
中国全土では地震多発地帯はあるが上海では地震は発生しないのである。よって何も心配はないのであるが、完全にお上りさん状態なのである。
「やっと、龍陽路駅についたか」
「あら、いやですわ、マスター。空港からまだ8分しか経ってないですよ」
トランスラピッドを降りて、他号車に乗っていた九条の一行と合流して改札出口に向かった。
九条慎太郎の顔色は心なしか良くない。俺と同じ気分なんだろうと勝手に思っていた。
改札出口では郭が迎えに来ていた。
「早神先生、お久しぶりです」郭は何故か初対面の時から俺を先生と呼んでいる。
「郭さん、この大人数で押しかけて申し訳ない」
「いえ、お手伝いできる内容に興味深々ですよ。それに今回はお若い女性が三名もお迎えできますし」
「一名、常識の乏しいものが居ますが、そこはお許しを」
「ワタシのことかな? 礼儀はわきまえています」
十三夜はちょっとふくれっ面をして頬を少し赤らめていた。
「お嬢さんですね、未来世から来たという妖精の十三夜さんというのは。
郭です。よろしくお願いしますね」
「はい、ヨロシクデス」
「これから、荷物をホテルに入れて、早速私の事務所に行きましょう」
今回も、滞在先は上海天鵝賓館(Shanghai Swan Hotel)である。
鵝はガチョウであるが、天鵝となると白鳥である。この文字の流れで何故かいつも『みにくいあひるの子』を
連想してしまうのは俺だけのようだ。
「各人、荷物を部屋いいれて1時間後にロビーに集合のこと。十三夜は心配なので葵とツインの部屋だ」
「ツイン知ってる。二人部屋のコトダナ。未来世ではレイジと止まったけど。ここではアオイとか」
俺は、部屋のネット環境、隠しカメラ、盗聴器を確認し、今後の成都での極秘調査をする為の打ち合わせのことを思い、壁絵を眺めながらベッドに横になった。