時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第16話:集積疑似思念波 その2 (中国、上海へ)

 現時点、二〇二十八年七月において疑似思念波の集積ポイントは、中国の成都の西にあった。

 三代目の特殊サバクトビバッタの群体はそこに留まっている。今年に入って越冬しインドからマラヤ山脈東端を越えて飛翔して来たのである。

 我々は、成都へ向かうべくまず上海によることになった。上海でオフショア契約しているブリッジSEの郭宇豪(かくゆうはお)に成都の案内をしてもらう為である。彼の出身地は成都であり現地に精通している。

郭は俺と同じ上海でAIの研究をしている。今や、AIの最先端の利用技術は中国が最先端を走っている。

部下の設楽信士が開発したAI幻影(ファントム)は実は郭の開発したAI幻覺(ファルゥー)から派生したものである。

中国は現在、グレートファイアウォール(金盾)をさらにグレードアップしたプラチナウォール(白盾)で西洋のネットワーク体系から強固に隔離されている。

しかしながら、中国政府から有益と認証、さらに情報契約した個人、団体には国別関係なく、中国の中央AIセンターに直結できるVPNルートが提供されている。

我々も中国から認証された少ない機関の一つなのである。

「マスター、今度は連れてってくれるのでしょうね? いつもバーチャル会議だもの」

「では今回の出張メンバーを発表するとするか」

「蜂妖精女王の十三夜(つきみ)千夜一夜(アルフ・ライラ)を幻視した唐條葵(とうじょうあおい)の二人を連れていく」

「統括マネージャ、私は?」

「居残りだな」

「ですよね、AI幻影(ファントム)の調整ですか」

「ああ、AI幻覺(ファルゥー)と今回直接リンクする実験もあるので」

「わかりました。中国の原始思念波の研究はどこまで進んでいるのでしょうか? 中央AIセンターの記録にそれらしいカテゴリーがあるのですがブロックされています」

「そこは、国家機密なのであろう。我々が先行して研究していればいずれ向こうからコンタクトしてくるだろう。九条殿のように。まあ、既にマークされていると思うが」

「信士、こっちのセキュリティーブロック、感知も高めておけよ」

「はい、ダミーのフェイクAIも用意してますので大丈夫かと」

「レイジ、チュウゴクって海を渡った西のタイリクだよね。ウワサでしか聞いたことがないな」

「十三夜が聞いている、未来世で噂って、例のあれか」

「ソウ、紅のドラゴンに匹敵する黄龍がいるって」

「未来世では、中国に行かなかったからその黄龍には会えなかったがな。今世にいるのか黄龍なんて。

まあ風水の龍脈も今や全盛期だかなら。どこかに潜んでいてもおかしくないか」

「フウスイのリュウミャクって思念波のナガレなのか?」

「え?、そんなこと今まで考えたことなかったよ。郭の実家は成都では高名な風水師だからな、今度それとなく聞いてみるか」

 十夜族(TEN NIGHTS CLAN)のメンバー、俺と十三夜、唐條葵の三人で九条の一行をここ関西エアポートの第2ターミナルで待っていた。

 十三夜は、間近でジェット機を見るのは初めてであるが、それほど驚いてはいないようだ。それよりも早く乗りたそうで、ガラスの面に顔をくっつけて食い入るように見ている。まるで子供の仕草だった。

「早神殿、お待たせ致しました。鉱物結晶学専門の九条美香を同行させます」

「はじめまして、今回慎太郎爺に同行致します九条美香です。よろしくお願い致します」

「早神令時と申します。鉱物結晶学の専門と聞かされていまして地味な研究でどんな方かと思ってましたら、あなたのような若くて聡明な美しい女性でしたか」

「はい、よく言われます。鉱物結晶学って何って?」

「失礼しました。余計な詮索でした。ここにいるのは、未来世から呼び寄せた十三夜と私の部下の唐條葵です」

 九条美香は、葵と同い年ですぐに打ち解けたようで、十三夜も九条美香に懐いたようだ。

 搭乗ゲートが開いた。上海へのフライトだ。