時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第23話:集積疑似思念波カウンターのグレードアップ その1

 サバクトビバッタ群体は原始林で覆われている九寨溝(きゅうさいこう)に向かって着実に進行していた。

 サバクトビバッタ群体の集積疑似思念波の上海AI幻覺(ファルゥー)と京都AI幻影(ファントム)での同期解析で分かったことは、疑似思念波の振動波幅は減衰しないということだ。重力波と同様である。

 重力波と決定的に違っているのは、その伝播速度である。疑似思念波は光速を越えていた。

 ただし、疑似思念波にも伝播速度があった、最大で光速の27倍である。最大というのは複数の振動周波数が含まれておりその周波数帯によって伝播速度が違っていた。より周波数の高い疑似思念波が光速の3の3乗倍を示していた。

 サバクトビバッタ群体でこの疑似思念波の最大速度を示しているのは、移動の先頭部分であった。

 ”特殊な一匹”のサバクトビバッタは今まで、集積疑似思念波の中心にいると思われていたがどうも群体の移動先頭にいるようである。

 九条美香が所有する集積疑似思念波カウンターでは、サバクトビバッタ群体の集積疑似思念波の中心部が最高カウンターを示しておりこのままでは、”特殊な一匹”のサバクトビバッタは捕捉できない。

 急遽、京都AI幻影(ファントム)から九条グループに解析データを転送し、集積疑似思念波カウンター機器にアプリケーションの遠隔アップグレードを行った。捕捉した疑似思念波の振動周波数のフィルター機能を追加したのである。

 グレードアップした、集積疑似思念波カウンター機器に女子三人は何か盛り上がっていた。

「ほら、これで切り替えることができるんだよ」美香はMAXのボタンを押下した。

「何も、表示してませんね」葵はLCD表示に何も反応なく、俺の方を見返した。

「コワレテルよこれ」十三夜は、動作しないものは全部故障していると言う。

「どれ、貸してみな」俺は、美香の集積疑似思念波カウンター機器を取り上げて操作してみた。葵の言う通り、振動周波数のMAXのみ受信だと何も表示しなかった。

 遠くの上海、京都では確実に捕捉しているというのに。

「まさか、近すぎるのか…… 近いといっても400kmも離れているのだけど」

 集積疑似思念波カウンターの振動周波数のフィルター機能を操作したところ光速の3倍までであった。

 現場に行けば、光速を越える疑似思念波は捕捉できなくなる。

 受信部自身のハードのグレードアップを必要としている。

「思い出した。クレナザイト製の鉱物だ! それを受信部の全面に装着すれば探索できる」

「早神さん、クレナザイトなんていう鉱物は聞いたこともございませんが」

「現世ではまだ存在していない、あるいは発見されておらず、未来世ではダイヤモンドよりも硬く半透明ルビー色をした鉱物です」

「どうやって、手に入れるのですか」

「クレナイのドラゴンだな」十三夜は、得意げに自分のことのように言った。

「そう、俺のことだ、紅のドラゴン」前回は体長20cmのミニ紅のドラゴンへの変幻だったがな。

 紅のドラゴンの鱗がクレナザイト製で半透明ルビー色なのである。宝石にした場合ルビーよりもっと深紅だった。

「未来世で、探索者のアリサが俺の紅のドラゴンの鱗の一枚を使って、思念波に指向性を与えてより精密に索敵すると言っていた。

これは逆じゃないかと思う。入力に対して振動周波数をより精密に分離することで索敵精度があがるのではないかと。 葵、AIアルフ・ライラに理論の検証を頼む」

「承知致しました」

 ここ成都の都市部で通常の大きさの10mで変幻して見つかってしまうとやっかいなので、郭に適当な変幻する場所の選定を行って貰った。

九寨溝(きゅうさいこう)への途中に黄龍地区がある岷山山脈の一部に誰も来ない秘境があるので、そこに行くことになった。