集積疑似思念波カウンターのグレードアップに必要なクレナザイト鉱石を得るには、紅のドラゴンの鱗が必要だった。紅のドラゴンとは早神令時こと俺が変幻した姿だ。
「迷いの森」後の上賀茂サバイバルフィールドでは、思念波のエネルギー総量制限で、ミニだったが、ここ黄龍地区黄龍古寺の西の岷山山脈の入り組んだ麓で、俺は仮想実体魔法で紅のドラゴンに変幻した。
利用できる思念波のエネルギー総量は十分にある。思念波は減衰しないのである。
日本の思念波が集合している領域さえ今や利用できることは分かっている。理解できれば仮想実体魔法にその概念を乗せるだけで良かった。
変幻と同時に、大空に駆け出した。翼を得ると本能的に飛び立ってしまうのである。
翼の横にはいつの間にか、蜂妖精女王の
岷山山脈の山頂を飛んだ。眼下には太陽の光を反射する五彩池が金色に輝いていた。角度によってエメラルド色から青色に変化する。
「
「ア、ワカッタ。引き寄せられてシマッタ」
麓の隔離された草原に、紅のドラゴンが舞い降り、草木が風に吹かれ白光が周囲にさざ波のように伝播した。
「これが、噂の紅のドラゴン!」
九条美香はそう言いながら、既に
どことなく、未来世で会った探索者アリサに容姿と共にその行動も似ている。
鱗は生え変わり、古い鱗は女性のハンマーでたたく力で十分に採取できる。
「取ったー、紅のドラゴンの鱗だ! うふふ、ルビー色の半透明の鱗。これをレンズのように加工して装着すれば、集積疑似思念波の先頭を捕捉できるわ」
「加工が必要だな。この辺りに工房は?」元の姿に戻った俺は、郭に聞いてみた。
「麓の黄龍古寺で聞いてみましょう」
「黄龍って名が気になるのだが」
「この一帯の地形と五彩池の色あいから黄龍伝説があります」
「そうか、黄龍って黄色ではなくて、さっき見た金色なのかな。黄金の龍じゃないか。
まあ、俺は紅の
黄龍古寺に皆たどり着いた。境内がなんか騒がしく、口々にホアン・ロンって叫んでいた。
「郭さん、ホアン・ロンって黄龍のことでしょうか?」国文科出身の葵が真っ先に聞いた。
「いえ、黄龍は、ファンロンですので、ここで言うホアン・ロンは……」
「まさか、紅龍のことか! 見られたのか」
五彩池に来ていた観光客が、西の山に鮮やかに輝くルビー色をした西洋の竜のようなシルエットを見たようだ。五彩池の青色の水面に輝く宝石のように映っていたのである。
ほんの数分のことであったが、もうこの一帯に噂が広まっていた。紅龍が現れたと。
「まずいな、ここでこのルビー色の鱗を出して話を聞き回るのは。自力で作るしかないか。最初から自分で作ればいいんだ」
俺は、ルビー色の鱗から記憶実体魔法で、ルビー色のレンズと、残りでネックレスを作った。
レンズは、集積疑似思念波カウンターのアップグレードに、ネックレスはアリサ似の九条美香へ。

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