岷山山脈の最高所の道路、といっても舗装はされておらず砂利と道路際には赤い花が連なっている。
我々がいる場所はその道路から脇に少しそれた、岩に囲まれた空間であった。
上空からのドローン映像を眼鏡に装着した3DのVRモジュールで見ると、道路は龍のようにうねり、その背の鱗は赤く燃えているように見えた。岩に囲まれたテニスコート程の平面は、龍の頭部の様だった。九塞溝の渓谷にある『五花海』はエメラルドグリーンに煌めいていた。
「息をのむ光景だ。もしこの光景を紅のドラゴンとなり、自身の眼で見たらどうだろう……
昔の古人が見ることができたら、これは、紅の龍だな」
時々VR映像が一瞬ブレる。群体から逸れたサバクトビバッタがローターに巻き込まれて散っていってるのだ。
回転数が落ちたローターを他のローターで推力を保とうと自動バランスをとっているのである。
映像の一瞬のブレが予想外で3D酔いを起こす。
「葵、AI
「マスター、計算と結果伝送に都合、三秒ほどかかるようです」
「タイムラグが三秒もか……」
「マスター、どうされました?」
「レイジは、タイムラグの情報と視認の統合には弱いのだな。時々顔が真っ青にナッテルシ」
「なんとか克服するしかないな。タイムラグを脳内で調整できればと思うのだが」
「早神殿、日本に帰ったらそのような装置を検討させましょう」
「お願いしますよ、九条殿」
三秒差をイメージして、俺は中腹にいるサバクトビバッタ群体に向けてドローンを霧の中へと潜行させた。
霧の中からは、アメーバー様に広がった黒い群体に見えた。
「先頭を捕捉した!」
「マスター、現在、タイムラグは二秒です!」
「了解した。霧から出たら一気に自動操縦でボスに向かう」
「頼みますぞ、早神殿!」九条慎太郎は、3DのVRから同時配信されるスマートフォンに身を捩りながら向かって叫んでいた。
霧から出た。左下方に本体のサバクトビバッタ群体がいるが、この辺りにもまばらに逸れたサバクトビバッタが飛翔していた。
それらを避けながら、群体へとドローンを加速させた。
群体辺境の最初の接触。まだかわせる密度の飛翔だが、このまま群体の中央を突破するには無理である。
一度、上昇しボスがいると思われるの一つの触手のように見える群体へと再突入した。
「マスター、現在、タイムラグは一秒です!」
「なんとかするさ」
もうサバクトビバッタをかわす必要はない。
それ程の密集状態である。視線はブレにブレてドローンを思うような方向に飛行するのが困難になってきた。
巻き込まれたサバクトビバッタの体液がローターの回転を鈍くしており安定性はかろうじてAIで自動補間操縦されている。
「もう、少しだ早神殿。見えた! ボス!」九条慎太郎は、自身のスマートフォンの映像でボスをタッピングしていた。
「ふふ、タッピング情報もオーバーラップされるのか、俺にはどの個体がボスが判断つかないが」
オーバーラップされたポイントに、ドローンへ緊急非常制御を出した。
ドローンをロストする覚悟でボスへと一直線に向かう。

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