時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第39話:李神美の素性

 第3世代のボス黒紫の飛蝗はすでに李神美(リ・シェンメイ)の細胞遺伝学研究室に運ばれていた。

 いろんな化学分析装置が設置されていた。見慣れた装置ばかりではなかった。

 最先端風な装置ではなく、どちらかというと全時代的な旧式の装置に何かの結晶のコアを設置、そこからオレンジ色の光が放出されている。

 その装置の結晶のコアの配置は、九条殿が思念波発信装置のガイドマーカーと酷似していた。

 科学的に理解できない機器は魔術的な装置な不明なものとして感じてしまうが、やばい装置であることは間違いない。

 我々が開発したAI幻影(AIファントム)、上海のAI幻覺(ファルゥー)にしたって、関係者外から見れば意味不明な、魔法陣にも見る幾何学模様の結晶回路が幾十にも層になって接続されている。

 李神美(リ・シェンメイ)も何か得たいの知れないものを研究していることがその装置から分かる。

「この装置はね。師匠の九条先生のアップグレード版なんですよ。思念波を放出しているわけではないのですけれどね」

聞いてもしないのに、李神美(リ・シェンメイ)が言った。

「気脈ですか? 思念波と気脈には何か関連性があるのですか?」

俺は尋ねてみた。

「思念波と気脈は表裏一帯で、思念波をアップリンクとすれば気脈はダウンリンクですね」

「リンクとは?」

「まあ、それは呼び方であって気になさらなくても良いですわ。あなた方がアップリンク網を乱せば、

 ダウンリンク網にも影響を受けます。気脈が乱れるのです。それは私達にとっては大変問題なことなのです。我々の古人はずっと気脈を感覚的に研究してきました。ダウンリンク網です。しかし九条殿の研究からアップリンク網を知ることになりました」

「なぜ、そのことを我々に教えてくれるのですか。そもそも今回のボス黒紫の飛蝗とはどういう関係があるのでしょうか?」

「協力して欲しいのです。早神令時先生。そこにいる、十三夜(つきみ)お嬢さんにも。あなた方は未来世を知っておられる。

 その世界において二つの種族が相対していることを。今手を打っておかないとそれより先はなくなってしまう。その研究の鍵となるのがボス黒紫の飛蝗であり、もう一匹の第4世代の仮ボスの飛蝗です」

李神美(リ・シェンメイ)は目を潤ませていた。

「李神美さん、”フィボナッチ数列の時空位相循環”という法則はご存じですか」

「答えになってるかわかりませんが、第20代神官の早神心を知っております。」

 なんと、第20代早神心(はやがみこころ)を知り得るものは、この世には俺、唐條葵そしてここにいる十三夜(つきみ)だけだ。

 彼女も未来世の経験者であろうか? 少なくとも俺よりは先のことを知っているようだ。

 ここは、こちらとしても情報を手にいれなければならない。

「わかりました。協力致します。ただし九条殿の了解がいる。わたしの目的は、もう一度、第20代の世界に行くことです。やり残したことがあるのです。そのために思念波の研究をしております。もし気脈と思念波を融合できれば、時空位相を人工的に発生できるかもしれない」

 李神美に話しかけながら、思い出したことがあった。

 実家の神隠しエリアで十三夜(つきみ)を救出せたが、その時九条殿はそのエリアを遠隔監視していた。

 てっきり、思念波のアップリンク網で監視していたものと思っていたが、実はダウンリンク網で観察していたのではないかと。

 もしかして、北京で李神美に合うことは九条殿のお膳立てではないのか。

 俺は、苦笑した。なんて回りくどい爺さんだ。協力の了解をとる必要なんてないじゃないか。

「レイジ、またにやついてるよ。考えがマトマッタカ?」

「ああ、十三夜(つきみ)。どうするか道筋が見えたよ」