3か所に設置した未来への贈り物には、疑似思念波を発信するガイドマーカーも同時に埋め込まれた。
これらは、九条慎太郎の研究所が表向きは自動運転用のガイドシステムだが実は疑似思念波の発信装置である。京都御苑南西には、旧九条邸がありそこにも設置されていた。
もう一つは、俺の実家の里山に設置されている。ここは十三夜を救出した場所である。
都合、66カ所の疑似思念波のデータ受信を九条研究所から引き継いだのある。
疑似思念波の受信データは
夜になって部屋が消灯してもずっと、淡い格子状の緑の点のグループとひとつ南に離れたところにある緑の点が幻想的に浮かび上がって表示されている。
時々、その緑の点から波紋の様に周囲に光が広がり、隣接の緑の点に影響してさらに広がっていく。
俺は、時々それを眺めながら、バーボンのロックを飲んでいた。なぜか落ち着くのである。
そのような連続性の揺らぎが発生しているのを可視化するまではAIアルフ・ライラ自身も分からなかった。
世間のAIもまだまだ、自発的なひらめきは発生しないが、AIアルフ・ライラはうすうす気づいていたようである。
俺が、目視した波紋の発生タイミングと広がりを教えただけで、新たな発想を得たようだ。
「どうです、マスター」AIアルフ・ライラの声が部屋に響いた。
「いやー、より幻想的に表示してくれるのは嬉しのだけれど」
緑の格子状の点がクリスタルガラスにも映っていた。グラスの氷が音をたてると、一瞬、クリスタルガラスの表面の緑の格子状の点が揺らいだ。
「”嬉しのだけれど”とはどういう意味でしょうか?」AIアルフ・ライラの口調が硬くなった感じがする。
「分かってるだろ、連続性の揺らぎはなぜ発生するのか、起点はどこなのかを知りたい」
「そのことなら大丈夫です。
今回はさらに、3か所のリージョンを加えて、69カ所となり、疑似思念波の解析データが増えたことになる。
さらに、京都南部の山城のリージョン3のデータは貴重であった。
疑似思念波の連続性の揺らぎの起点が分かったのである。
「マスター、きょうもロックですか。アルコールは美味しいのですか?」いつものようにAIアルフ・ライラの声が部屋に響く。
普段は寡黙なAIアルフ・ライラだ。他メンバーには緊急時以外はめったに話かけない。
「日本酒は嫌いだな」
「答えになってないですね」
「なぜ、日本酒は嫌いなんですか、それもアルコールですよね」
「そうだ、実験で使うアルコールの匂いに近い。ゆえに嫌いなんだ。バーボンには樽の香りがあり風味がある」
「風味の成分は複雑な化学成分の分子が沢山入り混じっているのですね。私には分かりませんが」
「そうだな、いずれ風味もわかるインプットデバイスを付けてやるよ。その時は一緒にバーボンを楽しむとするか」
「はい、マスター」
壁に投影されている、一点が煌めいて、緑の格子状の点が揺らいだ。京都南部の山城のリージョン3もそれに続き揺らいだ。
揺らぎの連鎖を見せているのはAIアルフ・ライラである。揺らぎの連鎖は人間の視認できる時間よりも遥かに遅い。AIアルフ・ライラがわざわざ時間を延ばして表現しているのである。
「マスター、捕捉できました! リージョン2が起点です」
AIアルフ・ライラが緊張したような声で発生したと同時に、リージョン2の点が消失した。
リージョン2に設置した未来の贈り物がロストしたのである!

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