時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第48話:リージョン2への潜入 その1

 リージョン2は、磁気測定の名目で水度集落跡地の地下の空洞である。ここに設置した装置からの疑似思念波の通信が途絶えた。何者かが妨害したのだ、九条家とは敵対していないむしろ協力関係に今はある。

 水度集落跡地は、俺の実家から近く、十三夜(つきみ)を『迷いの森』から救出した場所に近い。

「統括マネージャ、行かれますか? 行くのであれば今回は一緒に連れていって頂きますよ」信士が言った。

 彼から進言されることはあまりないが、何かを察知しているようだ。

「単なる装置の故障であれば良いのだが、不測の事態が発生するかも知れない。そうなれば相手は……」

「相手は、十六夜(いざよい)が言っていた黄金の甲虫スカラベの子孫ですか?」

「そうだな」

「実体魔法の訓練は積んでありますよ。あの時と同じ、いえそれ以上に使えるようになっています」

「そうか、俺の方もこの世界で『紅のドラゴン』の変幻もできるようになっている。いけるか!」

 俺は中国成都で10m級の『紅のドラゴン』へ変幻を再会得できた。十六夜(いざよい)から教授された仮想実体魔法によるものだ。

 この世界ではあまりにも思念波が虚弱で、実体魔法というものは発現できない。それを無理に発現させるためには、原始思念波の流れ、風水の龍脈の流れ、それに局所的に発生している疑似思念波の増幅装置が必要である。

 未来世では、そのような繊細な感受は必要はなく思い浮かべるだけで良かった。

 故にこの世界では、実体魔法を発現させるにはより感受の鍛錬とその土地の成り立ちが重要であった。

 水度集落跡地は、里山の『迷いの森』に近く龍脈で繋がっている。

「レイジ、昆虫退治にイクノカ? ソレならワタシもついてイク」十三夜(つきみ)が思案中の俺の顔を覗き込みながら言った。

 十三夜(つきみ)は数cmの昆虫から、たとえそれが体長10mオーバの昆虫系魔物の駆除であっても、いつもそれを昆虫退治と言う。

 それは、おれの昆虫に対する概念が十三夜(つきみ)に伝播したせいである。

「マスター、私も行きたいです」葵が割り込んで言った。

「葵は、残って指揮してもらう」

「どうしてですか、私もゼノ核酸反応がマスターと同じくありました。それに……」

「いや、ここはコントロール室で分析してもらう。万が一我々がこの世界からロストした場合は、お前だけがたよりになる」

「そうですか。しょうがないですね。リージョン2は譲りますわ」

 葵は不服そうな顔で言った。何か信士と一緒に訓練していたようであるが、葵は戦闘能力は皆無である。

「AIアルフ・ライラ、水度集落跡地の地下の空洞への侵入ルートを表示してくれ」

「統括マネージャ、そんなの施設の展示室からそのまま地下へ行けばよろしいのでは?」

「いや、未来世では地下空洞から水度集落跡地の遺跡直下に辿り着いた、そのルートを辿りたい」

 AIアルフ・ライラは、疑似思念波の受信データを可視化して前面の壁に投影されている画像にオーバーラップして、水度集落跡地の遺跡直下へのルートを表示した。

「めずらしいな、ルートの候補は1つしかない」

「マスターの未来世の経験をインプットしました」

「それはいいが、そこに本当に地下からいけるのか?」俺はAIアルフ・ライラに問うた。AIが出した答えに問う意味はないのだが。

「入口は、あなた自身知っているはずです。あなたの子供の頃に認知されています。その入口から遺跡直下まで龍脈が走ってます」AIアルフ・ライラが答えた。

「龍脈とは?」俺はわざと意地悪して問うた。

「上海のAI幻覺(ファルゥー)に教授してもらいましたわ。中国4000年の歴史です」AIアルフ・ライラが答えた。

「論理的な答えじゃないな。まあいい。そういうのならその入口からいくか。思い出したよその入口。子供のころは不気味な感じがしてけっして入らなかった場所だ。さて、皆、装備して出発だ!」