時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第60話:地下迷宮へ再び その3 サーバ室にて

 地下6階まではのセキュリティーは通常のIDカードでも問題なく業者単独で入ることができる。

 最深部の7階は、特別許可されているIDがないと、通常は入れない。入ることができるのは、許可IDを持っているものと同伴か、この施設のオーナーのみである。

 7階の各研究室での研究テーマとその実績は、世間のどこにも公開されていない秘匿事項であった。

 その一角のサーバ室に未来の贈り物を葵に置いてもらった。

 施設のオーナーに便宜をはかってもらったのだが、オーナーはどのような装置でなぜかは問うことはなかった。

 葵の記憶から取り出した情報ではサーバ室には、AI量子コンピュータが三台設置してある。一台は休止中のようで、バックアップ用だと推測された。日本中から選ばれた者が専用の記憶装置をオフラインで持ち寄り、このAI量子コンピュータに解析しては結果を持ち帰るという手法をとっていた。

 AI量子コンピュータはネットワークには接続されておらず完全遮断されている。

 とはいうものの、葵によると当社の内部情報の一部がこのAI量子コンピュータ内の記憶装置に蓄えられていることをあるキーワードの解析から判明した。

 そのキーワードは”フィボナッチ数列の時空時間”についてであった。このキーワードを知るものは、ごくわずかであり、俺の会社社員と九条慎太郎のみである。

「統括、地下7階へはどうやって入ります」

「これだ」

「やけに古ぼけてますね。そのIDカード」

「三年前の2025年に唐條葵に発行された特別許可IDカードだ。未来世の一万年後に手に入れた物が手元にある。一万年経っても地中に埋もれていればプラスチックは劣化しない」

 このプラスチックのIDカードを偽造することは不可能であった。

 このプラスチックのIDカードには記憶媒体の電子部品が組み込まれているが、別にプラスチックの中層に暗号化情報をレーザで微細加工され目には見えない紋様として刻まれていた。

 入力装置は生体認証よりもこの紋様データを優先としているようなのである。

 IDカードを保有していることが重要で、入退出記録さえ問題がなければ中身の人間がどのような者であるかは不問なのである。

 これは、未来世の一万年後でこの地下迷宮となった地下7階へ侵入できたことで、それは証明されている。

 このIDカードに記録されている入退出記録の最後は、「地下7階 サーバ室退室、二〇二五年一二月十日 午前二時二分」である。

「統括、その三年後の今日、サーバ室に入室することになりますが」

「三年もこの地下7階にずっといたことになるが、機械はそんなことは気にしない。いや過ごそうと思えば過ごせるかもな。研究に没頭すれば地上に出ず、すべての階で衣食住は揃っているのだから。さあ、あそこが最後のドアのセキュリティーだ。葵達はすでに入室しているはず」

 階下から振動が伝わって来ていた。いやここが最深部である。その振動は地中からのものである。

 追尾しているドローンの映像はスカラベの上翅をずっと映している。暗闇の中で透明な上翅が周りのひかりゴケで光って見えていた。進行方向先には赤い光が明滅しているのが見える。

「やつが、もうそこまで来ている。今度こそ確実に仕留めなければ。翡翠ナノ粒子アンプルは信士と俺で1発づつか」

 特別許可IDカードを入力装置にかざす、今までは意識したことがなかったが、カード内部に微細彫刻されている紋様が一瞬浮き上がって、その紋様が手の甲から体内に入っていくような感覚を得た。

 ドアが開く、中からアンプルから漏れたと思わる翡翠ナノ粒子のミスト状態となって赤い光が明滅を繰り返していた。

 緊急事態発生を赤色LED灯が知らせているのである。

 ミスト状態の中に、やつの影が映っている。

「葵!」

「大丈部です!」葵は50口径の対物ライフルに試作の翡翠ナノ粒子アンプルを装着して放って言った。

 翡翠ナノ粒子アンプルは、発射に耐えきれず、ライフルの開口部で粉々になってこのミスト状態になっていたのである。

「令時さん、いえマスター、私、やりましたよ!」初めてみる葵の満面の笑みである。反動で葵は床に尻もちをついていた。

「ああ、そのようだ。少なくとも時間は稼げた!」