時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
60/100

第59話:地下迷宮へ再び その2 葵と十三夜

葵と十三夜(つきみ)は、地下七階のサーバ室目前まできていた。

葵は早神令時の会社に勤めており、令時のアシスタントである。

この地下七階のサーバ室へ入るための最高権限のIDを所持している。日本ではこの部屋へ入れるのはこの施設のオーナーを含めて10人と満たない。

持ち込めるのは、オーナーから配給された量子メモリーで構成されるコア装置のみである。それ以外は一切だめで、ペンと紙によるアナログの記録もだめである。

規約違反は即刻IDをはく奪される契約であった。この部屋での見聞きは自身の記憶のみが有効である。

令時、信士も入室申請したが却下された。却下理由は教えて貰えずなぜかは不明である。

令時はいつも葵にAIアルフ・ライラが情報収集し情報属性を分類したコア装置に書き込んで持たせた。

処理結果はコア装置に記録され返される。

情報のインプットはこのように完全オフラインでの持ち込み処理である。

コア装置は中央量子AIコンピューターに接続され結果をまたコア装置に書き戻される。

AI中央量子コンピューターは、ネットに接続されておらずその目的も秘匿されている。

 葵と同伴であれば令時もこのサーバ室には入室できるが時間が限られているので、葵には以前から3メートル区画でこの部屋の状態・配置・空間を覚えるように訓練していた。

 それをAI幻影(AIファントム)とAIアルフ・ライラで葵の記憶脳から再現されたサーバ室を令時は精密に3Dで再現していた。

 全く使われていない空間があり、そこに未来への贈り物を隠したのである。

 ただ、一区画だけ再現できずに空白となっているブロックがあった。

 それは、1万年後の未来世で葵が捉えらて縛られていた場所である。

「アオイ、ここが迷宮最深部ダナ」

「そう、未来世ではね。今は名目上は中央量子AIコンピューター室よ。ここにコア装置をセットすると予定演算終了時間が表示されるわ。この場所に居られるのその時間だけ。なので難しい今回は難しい問題をマスターが用意してくれたはずよ。過去最大所要時間は3分だったけどね」

「前回、贈り物を置いた時はドウシタノ? コア装置以外は持ちこめナイヨネ」

「そうね、あの時は九条慎太郎博士がこの施設のオーナーに便宜をはかってもらったの」

「ああ、あのじいさんネ。なにかと大物だな。ねえ、アオイは三年前のあの天変地位の時はどうしてここにいたの」十三夜(つきみ)はサーバ室内を令時の作成した3Dになぞり合わせで飛翔しながら言った。

「ああ、あれはね、AIシステムの同時更新で、ここのシステムの一部も更新してたの。通信機器を持ち込むつもりはなかったんだけど、スマート・ルージュがポーチに入ったままだったわ。これで緊急メッセージを令時さんに送ったの。これだよ」葵は十三夜(つきみ)に令時からお守りにもらった通信機能が搭載された、赤い口紅を見せた。

「レイジにもらったのか……。ワタシもこのネックレスはレイジに作ってもらったのだ」

「そう、十三夜(つきみ)ちゃんもか。ライバルだね」葵はくすっと笑って言った。

 予定演算終了時間が表示された、10分。この場で居られるのはたった10分であるが過去最高の演算時間だ。

「マスターはどんな処理を要求したのだろうか? 禅問答でもしたかな。あと10分。未来世で黄金甲虫スカラベ王に捕まったときは何もできなかったけど、私も3年間サバイバルゲームで訓練してきたからね」九条美香から預かった試作品の翡翠ナノ粒子アンプルを葵は握り締めていた。

 サーバ室の部屋全体に振動が伝わってくる。ここはどんな壊滅的な地殻変動が起こっても、この部屋全体がハニカム構造の鋼鉄に守られている。ただし脱出できるかどうかは他力本願である。

 あの時は、部屋全体が上下に激しく振動し、ビルが崩壊するような破壊音がした。咄嗟にサーバラックの扉にしがみつき、スマート・ルージュからマスターの令時宛てに緊急メールを打った。

『護符に遠隔守護発動させました。ご無事を。第七階層で待っています。 葵』と。

--

 護符とは、比叡山の最強護符(角大師)である。葵は比叡山系のお寺の娘である。

 早神令時、部下の設楽信士、唐條葵は霊的な感覚で繋がっている。

 時に、普段は京都の四条に構える会社で、平安時代からの霊的な落ち武者とかにじゃまされながらも、インスピレーションを得て仕事をしているのだ。

 結果、全てAI幻影(AIファントム)とAIアルフ・ライラに情報は投入される。

 今回、中央量子AIコンピューターに問うた質問は、

 霊的な感覚からインスピレーションの数々の情報とともに、

”時を越えてシンクロニシティ―は発生するのか”

である。