時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第66話:接触

 眼下に金色に光る九条サクラが手を振っていた。彼女のつややかな金色の九尾が陽光を反射しているのである。九条サクラは半妖であるが人となんら変わらなかった。

 ただ、もしかして彼女も変幻できるのではないだろうかと思えるほど強力な思念波を持っている。

 そんな、彼女が地上より手を振るだけで、援護の思念波が自分に到達しているのが分かるのである。

 この二十一番目のフィボナッチ数列の一万九四六年の時代の九条家と俺のいた二千二十年の時代の九条家と明らかに繋がっている。

 九条慎太郎爺が羽織っていたケープコートの襟に金刺繍された藤の家紋が、九条サクラが持っている扇に施された藤の紋が瓜二つなのである。

 九条家にもフィボナッチ数列の時空の連環の記録が残っているはずである。

 俺は、上空に飛翔しながら考えていた。前回の時空位相でフィボナッチ数列の時空の連環を時空の神宝、反時空の神宝の対消滅で断ち切ったはずなのにどうしてまた、この世界に呼び出されて、昆虫の魔物の勢力が巻き替えされようとしているのか?

 結局、歴史は本来元ある歴史に軌道修正されてしまうのか。

 九条慎太郎爺は、宇宙には既に最初から終わりまで記録、アカシックレコードがあると言っていた。

 その時は、昆虫生態学者の九条慎太郎にてして何をそんなことをと、聞き流していたが案外未来の結果は既に確定済みなのかもしれないと不安が沸き起こる。

「レイジ、雲を突き抜けた。また何か考えているよネ」

「あ、すまん。いつもの癖だ。」

「雲の切れ目のほら、あそこに飛蝗の群体がミエル」

十三夜(つきみ)、俺の背に回れ、ブレスを吐く」

「フフ、久しぶりに全力の神炎のブレスだネ」

「そうだな、飛蝗の群体には悪いが一掃する。その後でプラチナ甲虫スカラベだ。今度こそ始末をつける」

 紅のドラゴンの口蓋が開き、奥から炎のコアが次第に圧縮、凝縮され神炎へと形成されていく。

 口蓋の内壁は深紅のクレナザイトにより保護され、灼熱の神炎は更に赤く燃え上がっていった。

 ブレスが前方の雲の切れ間の黒い塊へと放出……

 そのとき、令時の脳内に声が反響した。いや外部からの強烈な威圧的な思念波であったがなつかしくもあった。

「待て、令時! 我は十六夜(いざよい)なり」

 令時が放った神炎のブレスは、雲の端をかすめていった。ぽっかりと雲に穴が開いた。蒸発が激しくすでに違う場所に雲が生成されようとしていた。

 飛蝗の黒い群体は一部が焼け落ちただけで相変わらず、前方に陣を張っているかのように見えている。

「その飛蝗の群体を焼き払ってはいけない!」十六夜(いざよい)が思念波で伝えてきた。

十六夜(いざよい)か。今どこにいる」

「山城へはもうすぐじゃ」

「それにしても早いな、先ほどは九州地方では?」

「我も飛翔しておるでな」

「飛翔? どうやって」

「私ですよ、令時さん」十五夜(かぐや)が思念波で伝えてきた。

 懐かしさが込み上げてきた。十夜族姉妹である。十三夜(つきみ)も察知したようであった。

 俺の頭の周りを高速で回っている。嬉しいときの十三夜(つきみ)の行動の一つである。

 いてもたってもおられないようだ。

十五夜(かぐや)、お前は高速で地上を移動できるが飛べなかったはず」十五夜(かぐや)へ問の思念波を送った。

「かの大陸より更に西の地の聖翼、ペガサスの翼を手にいれましたのよ」

「なんと、ペガサスの翼か。姿を見て見たいものだ」

 十五夜(かぐや)の変幻体は牛ドラゴンのキメラである。そこにペガサスの翼が付くのである。

そのフォルムが想像できない。

「それにしても、何故、飛蝗の群体を一掃してはいけないのだ」十六夜(いざよい)へ問の思念波を送る。

「それを焼き払うことは簡単だが、そうしてしまうと大陸の地の飛蝗の大群体が呼応して押し寄せることになり、その数からして対応できなくなるからじゃ。まずはプラチナ甲虫スカラベを退治するのじゃ」