時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第69話:飛蝗群体の統率者

かつて遥か昔に上海と呼ばれていたところのシンボルタワーの東方明珠塔(とうほうめいしゅ)の西方に、10メートル級の飛蝗の群体が空を覆いつくし、数億の飛蝗が旋回し黒い竜巻を形成していた。

もはや、龍族、十夜族の少数精鋭でさえ太刀打ちできるレベルではない。

たとえ零位守護者の早神令時の変幻体である紅のドラゴンの神炎皇のブレスでもってさえ無意味に思われるほどの広範囲に群体は展開していた。

「なぜ、こんな数に膨れ上がってるのじゃ」

「一匹の飛蝗の上位個体が大陸の西方のスカラベ一族を制圧し、統率者になったようです」

「ああ、昆虫王の黄金スカラベを令時が成敗した、その隙をついたのか」

「そのようです。もともと飛蝗は個々に分散しており、特に害はなかったのですが、統率者が出現し群体としてまとまり、さらに巨大な群れとなって狂暴化しています。この地で我々の手には負えなくなりました」

「一部の群れが海上を渡って行ったがその数は知れている。しかし、こんな群体そのものが海上を渡って、山城の地へ渡ってきたらひとたまりもないなどうすれば良い?」

「群体中央にいる統率者を討つしかない」黄龍は十六夜(いざよい)を見つめた。自分の無力さに、嘆いているようだった。

「しかし、あの広がりだと中央までは辿りつけない。およそ数百Km、台風並みではないか。龍族の中で神炎皇のブレスを吐けるものはいないのか? 焼き払えなくても、中央への道は開けることができると思う」

「零位守護者の紅の竜のような超越したブレスを吐けるものは残念ながらおりませぬ。再来を待つしかないのか」

「令時はいずれ再来するだろう。それまでこの群体をここで止めおいておかなければ」

「姉さん、群体のさらに上空からの急襲はどうかな。私は亜音速で中央を突破して統率者を引き落とすとか」

「だめだな、十五夜(かぐや)、あの群体は残念ながら半球体上の上空に膨れ上がってるからやはり、中央までは辿りつけない」

「やっぱり令時さんが必要だね。あの限りなく前方にあるものを焼き尽くす『神炎皇のブレス』!」

「想像ができないな、その『神炎皇のブレス』ってやつは。この目で見たいものだ。さて零位守護者の紅の竜が再来するのは、明日なのか、ひと月後なのか、数年なのか。

われら龍族がやつらをここに引き止めておけるのはせいぜいあとひと月ぐらい。風龍の『神風皇のブレス』で群体を押し戻すことだ。

しかし押し戻してもまたさざ波のように戻ってくる今は膠着状態だがいずれ均衡がやぶられてしまうだろう」

十六夜(いざよい)は、零位守護者、早神令時の精神体と接触した令時の方から思念波の活性化でコンタクトがわずかな間とれたのである。そのときに甲虫スカラベの子孫の逃走を忠告したが、いずれ、肉体とともにこちらに時空位相できるだろうと考えていたが、その時が到来したのである。

九条サクラからのメッセージと共にその位置情報が石版通信機に入ったのである。

「黄龍よ、位守護者、早神令時が再顕現したようだ。一時、山城に戻り必ず戻ってくる。ここで持ちこたえてくれ」

「承知! お願い致す」

十五夜(かぐや)! 、全力で山城に戻る」

「わかりました。姉様」

十五夜(かぐや)は、シンボルタワーの東方明珠塔(とうほうめいしゅ)を今度は逆に地上から塔を急旋回上昇し、拡散された思念波を翼に集め高高度を東に向かった。偏西風の追い風にのり音速はゆうに超えていた。

眼下には群体から一部が分離した飛蝗の線状の列が海上を東へと続いていた。先遣隊の次の隊のようである。

山城の地でいくら叩いても、このようにやってくるのである。

本体の統率者を叩かない限り……