時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第74話:黒い雲の統率者の行方

 四つの生命体の飛翔混成部隊を黄龍のキトラが先導することになった。

 キトラはまさしく龍の姿をしており、上海の天空を駆け抜けていく。

 あの、現世で遠目から見た光景が今、目の前を飛翔しているのである。

 かつて、上海は魔都と呼ばれていたこともあるが、それは日本の作家が表現したものである。

 今、眼下には魔都と呼称する風景がまさしく展開されていた。

 夜霧を突き抜けた東方明珠塔(とうほうめいしゅ)の上空には、白い大きな満月が上り、淡く霧の上面を照らしており、地上からは翡翠樹から放射される緑の思念波を伴う光線があちらこちらを照らし上空へと突き抜けている。

 地上にいる生命体のどれだけが、この上空にいる我々を認識しているのだろうか?

 そもそも、この地の構造物を造った者は今ここにいるのだろうか?

「ギギ、ほら遥か前方なのにあんな広範囲に黒い雲が広がっている。やつらだ」プラチナ甲虫スカラベのレフアルが見下しと恐れを混ぜた疑似思念波で伝えた。

「三千里は離れているな。そこからして千里の範囲にまで膨れ上がってる」キトラが言った。

「キトラの1里は何キロなんだ? 俺の知っている1里が4kmとはだいぶ違うようだ」俺は前方の黒い雲からキトラの1里を概算しながら言った。

東方明珠塔(とうほうめいしゅ)で高さがだいたい2里だな」

「そうか、そうするとあの飛蝗の群体は500kmの広さに広がってるのか。大型台風並みか」俺は、現世でも同じぐらいに広がった飛蝗の群体を目撃している。

 ただそれらの1個体は十数cmで小さいが、今回は1個体が十数mにおよびその密集度は比べ物にならないぐらい高い。

 そうとうにやっかいそうだ。

 レフアルが臆するにも無理はない。

「紅竜、君の神炎皇のブレスの射程距離はどのぐらいある?」

「わからん」俺は以前、神炎皇のブレスを何度か吐いたことがあるが、何も障害物がない空間でどれほど届くのか自身でもわからなかった。

「令時の神炎皇のブレスは何かに接触するまでは無限に進行する。減衰なしに」背中の紅の鱗で保護されているコックピットの中の十六夜(いざよい)が言った。

「そんなに!」キトラが目をむいて言ったが、俺自身も驚いた。

 五つの生命体の飛翔混成部隊は高度を上げて行き、積乱雲のはるか上層まで達した。高度は3万mである。

 黄龍のキトラが令時、紅竜に3回神炎皇のブレスを吐くように言った。

 ひとつは、黒い雲の中心へ、10秒ほど後に、さらに最奥の周辺の縁と最後に一番手前の縁へ吐くというものであった。

 ここから神炎皇のブレスを吐けば1分でやつらの群体に到達するだろう。

 まずは攪乱させて、接近することになる。

 黒い雲の中心に届いた神炎皇のブレスは中心を焼きはらう。その様が周辺に伝わる時には、更に追い打ちが来ることになる。

 令時は、キトラの言われたとおりに神炎皇のブレスを吐いた。十六夜(いざよい)が言ったとおり、魔都の高高度上空から一直線に

 黒い雲へ三筋の炎が拡散することなく一直線に伸びていった。息の続く限り……

 五つの生命体の飛翔混成部隊は今度は十五夜(かぐや)を先頭に一群となって音速飛翔で黒い雲へと向かう。

 黒い雲へ一撃目の神炎皇のブレスが到達したことが、中心から周辺へ黒い影が移動するのが見えた。

 二撃目、三撃目が今度は周辺を襲うと、黒い雲は今度は中心へ黒い影が波紋の様に伝わっていく。

 群体の統率が少しのあいだ解けたようになった。

 この中に、統率者がいるはずだ、それを見つけ出さなければ。

「ギギ、令時殿。我に任せて下さい。かならず見つけ出してみせますよ。やつらなんか神炎皇のブレスで一撃ですよ」レフアルの興奮する疑似思念波が

伝わってくる。

「どうやって見つけ出すのだ。俺からあの黒い雲を見ても思念波の塊に過ぎずどこも同じ濃度に見える」

「ギギ、それはあなた方、ホモ・サピエンスが認識する思念波であって、我々が駆使する思念波であれば、その濃度差は一目瞭然です」

「ソウダナ、私にも少しはワカル」蜂妖精女王の十六夜(いざよい)が相槌を打った。

「ソレハ、あの黒い雲の中にはイナイ」……