時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第80話:『時空の神宝』と『反時空の神宝』と

湖面中央でレアフルと黒い雲の統率者の飛蝗が戦っていた。双方の最大武器は翅を震わせ衝撃波を発生させることであるが、それぞれの翅は十三夜(つきみ)によって射抜かれており、相手に致命的なダメージを負わせられないでいるようで、五色湖の湖面には何度も円状に波紋が立ち、その波紋は打ち消されているのが見えていた。

「膠着状態のようだな」変幻を解いた少女の十六夜(いざよい)が言った。

「『神炎皇のブレス』であの二匹とも、灰にできるのだがな」俺はもどかしかった。

 昆虫族は一掃しなければならない。

 しかし、このアスカ(地球)の未来の発展の為には甲虫王の子孫のレアフルは生かしておかなければならない。

 思念波と異質な思念波である疑似思念波を統一しなければならないのだ。

「レアフルも理解しているはずだな」俺は湖面中央で対峙しているレアフルに思念波を送った。

「おうよ、第二十一代令位守護者の令時殿」レアフルが疑似思念波で相槌を打った。

 前回の『時空の神宝』と『反時空の神宝』による対消滅は何を意味していたのだろうか。

 当初、その対消滅によってフィボナッチ数列年に発生する時空連環を停止させることができると思っていたがそうではなかったのか。

 ほんとうに対消滅したのだろうか? もしかして神宝はまだあの場所に存在しているのではないか。

 疑似思念波を理解しているレアフルをあの場所に連れていかなければならないのではないか?

 もう一度、『時空の神宝』と『反時空の神宝』とそのエネルギである『思念波』と『疑似思念波』を合わせる必要がある。この統一こそがフィボナッチ数列年に発生する時空連環を停止させる方法なのだ。

「レイジ、また思考にふけっているナ」変幻を解いた少女の十三夜(つきみ)が言った。

「やっとわかったよ、『思念波』と『疑似思念波』を融合できる存在が」俺は十三夜(つきみ)を見て言った。

 あの地下七階での最奥の一番広い部屋での最終局面で必要だったのは伝説の十夜族始祖の千夜一夜(アルフ・ライラ)が憑依した唐條葵と共に、『蜂妖精女王』の十三夜(つきみ)が必要だったのだ。

 彼女は、この時代で『思念波』と『疑似思念波』を両方理解できるのだ。

 レアフルと共に、十三夜(つきみ)ももう一度連れていかねばならない。

「レイジ、そんなに見つめたら照れるヨ」十三夜(つきみ)は頬を赤くして言った。

「ああ、十三夜(つきみ)はこれからもずっと一緒だ」

 十夜族の中で十三夜(つきみ)は、俺と現世に戻った時もずっと一緒だった。もしかしてそれは必然であったのかもしれない。

十六夜(いざよい)、すまない漆黒の狼に変幻して俺を載せてあの湖面まで駆けてくれないか」

「久々じゃの、令時が我の背に乗るのは。仕掛けるのか」十六夜(いざよい)はもう一度、漆黒の狼に変幻した。

「ああ、このダブルショットガンでな。この世界では魔弾は充足できるし、さらに翡翠ナノ粒子でさらに威力が増せることが分かったしな。しくじったら十六夜(いざよい)の黒爪で援護を頼むよ」

「やっと、我を頼るか」

「ああ、お前しかいない」

「そうか」十六夜(いざよい)は、第二十一代令位守護者の令時を見つけた時のような瞳を輝かせていた。

『龍神風のブレス』によって湖面まで開けた道を黒い疾風が駆け抜けていった。

 それは漆黒の獣とその背にダブルショットガンを背負った男のように見えた。