太古から飛蝗族は、集合し群体となってもそれは大陸から出られないことを繰り返していた。
数億匹の群体を維持するためには膨大な食料が必要で、無秩序に食い荒らすととたんに飢餓状態となりいずれは、個々に分散し生き抜いた個体が次へのチャンスを狙っていた。
ロゼアの最終目的地は海を越えた東の果ての地にある飛鳥である。
飛鳥には元凶の十夜族が居る。太古に我が昆虫族に知恵を与えてくれたあの月の使者である十夜族ではあるが、半面、意思疎通の疑似思念波の概念をもたらした。十夜族の破壊思考を認識してしまったのである。
ずっと長きにわたって、甲虫族と人族、十夜族は戦っていたが、甲虫王の黄金のスカラベは敗れたことは先見隊の情報から分かっていたことであるが、あろうことかその敵である人族、十夜族が今ここに甲虫王の子である女王レアフルがここにいるではないか。
ロゼアは混乱していたあの破壊思考を持っている十夜族と女王レアフルはなぜ共闘しているのか。
しかもあの伝説の令位守護者の中でも最強の早神令時がここにいるではないか。
弾道が見切れない一発の魔弾がロゼアの頭蓋を貫いた。
「なぜだ」ロゼアの脳のなかで閃光が渦巻いた。
「我にもわからぬな。ただこのままではアスカ地球のすべての生命樹は絶たれてしまう。
統合が必要なのだ、更なる発展のために」レアフルはロゼアに疑似思念波を送った。
既に二発目の魔弾が迫ってきているのをロゼアは認識していた。
これを受けてしまうと確実に絶命してしまうことはわかっていた。残存している周りの護衛している飛蝗も理解している。
護衛の飛蝗の一群は二発目の魔弾の方向に展開してロゼアを守ろうとしていた。
「ロゼア! 投降しなさい。今ならまだ間に合う。早神令時に任せるのだ」レアフルは蝶のように舞い迫る魔弾のそのさきの令時を見ながら、ロゼアに行った。着弾までまだ間に合う。
「レアフル、既に遅い。我ひとりがそのことを理解できても、我に従属している者は理解できないだろう。そうか意思疎通の手段を統合しようとしているのかやつは。そのアイデアはいつ……」
早神令時によって放たれた二発目の魔弾は一発目と同様の軌跡を描いていた。ただしその弾道は、蝶のように舞いフラフラと迷っているように見えるが、最終着弾点は確実に捉えている。
立ちはだかる護衛の飛蝗を巻き込みながら、一瞬、魔弾が停止したかのように、前進を躊躇したかのような間があったが、ロゼアの頭頂を貫いた。開いた傷口からは体液がほとばしり、魔弾が発する紫の閃光で燃え緑の体液は蒸発し、その成分のクロロフィルが高熱で白色に発火しロゼアの体は消えようとしていた。
「後は任せるよ、第二十一代令位守護者の早神令時。そばにいるのは十夜族の……」ロゼアは早神令時に最後の疑似思念波を送った。
レアフルは、目の前の飛蝗の統率者であるロゼアが閃光とともに白色の炎のなかで燃え尽きるの見た。
残された護衛の飛蝗は観念したかのように地に伏せていた。
「終わったな。二発目の魔弾は止められなかった」
「はい」
「もう少し話をしたかったのだがな。統率者ロゼアの最後の疑似思念波は受け取ったよ」
「そのようですね。令位守護者の早神令時殿」
「それでは、昆虫族の王、いや女王として名のるがよい。レアフルよ」
「飛鳥に戻るぞ」
灰になったロゼアの後には魔石が残されていた。最上位の魔物が残すかつて生きていた知識が記録された生命鉱物である。

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