東シナ海の上空には雲ひとつなく、海原はおだやかで、どこまでも濃い青色が広がっている。
黄龍キトラ、紅竜紅のドラゴンと十六夜いざよい、最後列に甲虫女王レアフルと十三夜つきみの飛翔混成部隊が白い筋雲を引きながら亜音速で東の列島のアスカへと飛んでいく。
我々が飛行するのに本来は羽は必要ない、種族が違うとはいえ羽は象徴的なもので、飛翔はこの世界に満ちている思念波をエネルギー変換して放出しその反動で飛翔している。
先頭の黄龍キトラが一番効率良くエネルギー変換でるので他を引っ張ってるのである。
今、飛翔している航空路はもう何度も往復しているが、直線ルートではない、眼下には小さな島が点在しているのが見えそれを結んだコースを飛翔している。
島からの増幅された思念波得られるのである。飛翔速度が加速するので、直線ルートよりも早く列島に到達できるのである。
現世ではなかった島が1万年後のこの世界では都合よく新島が連なっている。
渡り鳥と同じ飛行ルートである。もう何度も彼らのさらに上空を高速で追い抜いていく。
ふと、彼らはなぜ渡るのだろうかと考えてしまう。食物の豊富なところへ?繁殖がしやすいところへ? いや彼らは本能的に思いっきり大空を飛びたいだけじゃないだろうか。
今、俺が他力ではなくて自力で飛翔できるのでわかる。飛べるのならあの月にまで飛んでみたいと。
匂いが変わった。モンスーンの湿った匂いから海の塩の匂いがここまで届いている。もうすぐ列島だ。
「レイジ、飛翔速度が落ちてるよ。また考えながら飛んでる」十三夜が紅のドラゴンの頭まで接近して言った。
「すまん」俺は定例的なことが進行中の時は別に思考を巡らせる癖がある。これで知見を得ることもあるが、この時に突発的なことが発生すると無意識の自分が反応し対応するのであるが結果は散々であった。 ゆえに、時々、十三夜が注意を引き戻してくれるのは、ありがたい。
「戻ってきたな。アスカに直行したいところだが、伏見の攻防を確認せねばなるまい」俺の背のコックピット様の中にいる十六夜が言った。さすが狼である。列島の最南端に到達しただけで、中央のアスカの匂いを嗅ぎ分けたようである。
伏見では、九条リンが先頭となって、大陸からきた飛蝗の少数の先遣隊と戦っていた。
大陸の全飛蝗の群体の0.01%の少数といっても先遣隊は、十万に達する。
それを相手にしているのだ。
リンの弟のハズキも必死に戦っていた。切りがなく押し寄せて来ている。
東條葵のライフルからの魔弾は威力はあったがこの数相手には無力であった。葵を護っているのは、十五夜の牛ドラゴンである。
「タブレットに生体認識点が3つ表示されたわ」葵が叫んだ。
「令時さん、姉さんが戻ってきた。十三夜も。もう大丈夫だけど気を抜かないで」十五夜が葵に思念波を送った。
時同じくして、十万の飛蝗の進行が突如停止、群体がばらばらになった。統制のタガが外れたかのように……
西の空遠くに四筋の飛行機雲がこちらに伸びてきているのが見えた。

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