時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第93話:最後の未知の攻防

 意識が薄れていくときの海のさざなみのような雑音、手に金属の冷たい感覚、ああ、こんなところにあったのか小さいころのお気に入りの失くしたおもちゃのピストル。

 白浜の海岸で失くしたんだっけ。あの時気づいてからいくら探しても見つからなかった。 諦めきれず何回が日を改めて行ったが結局なかった。それが今、手元の砂に銃口だけ出てそこにあった。 銃口を掴み、埋もれていたピストルを引き上げた。

 歳をとってもなぜかこのおもちゃのピストルは時々思い出しては気になっていた。

 やっと見つけたのである。早速肩にかけていた紙の小箱から形の良い赤っぽい飴色のシーグラスをひとつ取り出し、太陽にかざしてからおもちゃのピストルにセットした。なぜそうしているのか自分でもわからない。

 両手におもちゃのピストルを海の方に向けて放つ。シーグラスは波にぶつかっただけで砕け散り、波は大きくなり龍の形になりこちらに迫ってくる。お前かキトラ、水龍でななくて黄龍キトラ。 龍の形をした波を全身に被った。

 整合性のない夢……

 全身をかけめぐる寒気と胸の痛みで目が覚めた。鏡に、大きくはないが紛れもなく紅のドラゴンが映し出されていた。

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「『天珠願魔石』を左胸に埋め込め、出血を防げ!」出血が激しく意識のない早神令時を見て黄龍キトラがレアフルに言った。

「でも、これは……」

「いいから早く、マスターが死んだら全ては泡に帰すわ。戻れなくなる」葵が言った。

「レアフル、イウコトヲ聞きなさい」十三夜(つきみ)がレアフルに命令し『天珠願魔石』を受け取り葵に渡した。

 葵は早神令時のえぐられた左胸の傷から深紅の光を放つ『天珠願魔石』を押し込んだ。生体魔石である『天珠願魔石』は体内に取り込まれ周辺組織に同化し、出血が止まり変幻体になった。

「子供の頃の夢を見ていたよ」思念波で皆に伝えた。

「レイジのミニ紅のドラゴンだ! でも以前のミニよりは大きいな」蜂妖精女王の十三夜(つきみ)が紅のドラゴンの周囲を回っていた。

「助かったようだな。あの鏡の向こうから、いや中から光線で貫かれたがどういうことだ」

「ギギッ、あの鏡はわたしがツツいてやったわ」レアフルが前足の先端を突き出していった。鏡には放射状にひびが入っていた。

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 部屋は静寂に包まれていた。紅のドラゴンになって人よりもはるかに感覚が研ぎ澄まされている。この部屋には敵がいる気配がすでに無くなっていた。どこかに潜んだようだ。

 パリンと鏡がさらに重みで割れて崩落した。そこには吸い込まれそうな黒い空間があった。

 奥があるのか、ないのかもわからないような暗黒であるが、三匹の蛍胞子は迷いもなく突入していった。蛍胞子は昆虫の光への正の走光性と逆で負の走光性であり、黒い方へと誘引される。

 黒い空間に蛍光で照らされているはずだが、光は全て吸収されているようで、中を視認することはできない。

十三夜(つきみ)、あの部屋を紫外線でサーチできるか? レアフルはどうだ?」

「階段みたいのがミエル」

「そうね、下に続いてるわね」紫外線を視認できるレアフルが続けて言った。

「おかしいな、この部屋より階下はないはず」

 切り札と思い用意いた二つの重要なアイテムは既に消費してしまった。ただ、この建物の空間にフィットした紅のドラゴンに成れたことは幸いである。ダブルショットガンを使えなくとも自身の神炎のブレスがある。このサイズなら周囲を何もかも消滅させることにはならない。

「レアフル、あの暗黒の入口を通れるか?」

「お聞きにならずとも、無理ですわ」

「ならば、神炎のブレスで入口を広げるか。蛍胞子は何処まで潜ったかな」蛍胞子を気にしながら照準を入口上部に合わせる。

「レイジ、マッテ! なかから何者か上がってくる」

 人のような形が浮かびあがっていた。