時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第94話:暗黒の支配者

 周囲の壁は光を吸収し真っ暗である。蛍胞子に照らしだされた姿は少女のようであった。何かに追われているのか、しきりに後ろを振り向いて、少女はこちらに向かってきている。

「パワーオン、バックアップモードスタート」少女が放った思念波である。

 その思念波に呼応して、幻覺(ファルゥー)幻覺(ファルゥー)の中央のコアが光りだし、カラフルなビーズが体の中央の球体の中を巡りだした。一瞬で再起動したようだった。

 少女が暗黒の地下室から飛び出すと同時に、幻覺(ファルゥー)幻覺(ファルゥー)の機械体は揃って、我々には目もくれず少女の方に移動した。

「マスター、ずっとお待ちしておりました。AI統合アルフ・ライラです」少女が名乗った。

 少女は幻覺、幻影のような機械体ではなくて、生身の人間のように見える。

 そんなはずはない、AI統合アルフ・ライラは量子コンピュータであり機械である。ただかつて彼女の思考は限りなく人間臭ささを帯びていたが。

「いろいろ聞きたいことがあるが、お前はあのAI統合アルフ・ライラか?」

「はい、マスター」過去の時空と接続しているAI統合アルフ・ライラが答えた。

「はい、マスター」目の前の少女が答えた。

「この子は、AI統合アルフ・ライラで間違いないわ。ちょっと子供っぽいけど」葵が彼女を見て言った。

 そいえば、AI統合アルフ・ライラが過去に3Dのバーチャル空間に投影していたアシスタントアバターを更に若くしたような面影があった。

「そのようだな。1万年も経っているから、どういう技術で存在しているわからないが。十夜族特有の匂いがする」俺は十三夜を見ながら言った。

「エ? 十夜族特有のニオイって? ワタシ臭くナイヨ!」十三夜は自分の腕を嗅ぎながら言った。

「いや、体臭ではなくて、そうZゲノムから錬成される思念波の匂いだ」

「やったー、将来は生身を得ることができるのね!」時空の向こうのAI統合アルフ・ライラはなにやらすでに分析しているようだ、ずっと果てしない将来の自分を予測した。

「お前はややこしいから、聞くまでだまってろ」

「マスター、そうです。私は人工生命で、人工ゲノムからバイオプリンティングで構築されています。通常のDNAではなくて、 ゼノ核酸XNAから生まれました。そのせいで……」

 扉の向こうの暗黒の空間からさらに何者かがこちらに向かってきている。

 幻覺、幻影の機械体は、扉の向こうを向き、迎撃態勢をとっていた。それは、先ほど我々に向けていた戦闘態勢である。

「何者に追われている? 昆虫族、龍・竜族、十夜族に敵はいないはず」

「それは、私にも未だ解析できておりませんが、ただ一つわかっていることは、地球、ひいては太陽系には自然には存在しなかったゼノ核酸XNAの生成者である存在。時空の連環を仕組んだ者でもあります。そのものにあの暗黒の部屋(空間)に閉じ込められました。そのものを討ち果たさないと、全族が生贄となってしまします」

「そういうことか、元の時間の世界に帰還するどころではないな」

 暗黒の部屋から飛び出した存在がひとつあった、それは……