時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第97話:闇の世界

黒辰は闇の世界に青辰と共に太古からずっと悠久の時に閉じ込められていた。周りからは見るとそのように見える。闇の中では光というものが存在できず、時間の概念もなく、無の世界である。その中で存在できたのは概念だけの精神体であった。

数十億年前にすでに十夜族は太古の青い惑星、アレス(火星)で繁栄を極めていたが、巨大隕石がアレス(火星)に衝突し大気と水を吹き飛ばし、 一部剥ぎ取られた大地は三つに分離しアレス(火星)を周回する月となった。灼熱化とした母星には住めなくなり、大半の十夜族は最も大きい月に避難した。

その中で一部の反対勢力は極秘に二番目の月に避難したのである。その系統が青辰と黒辰の一族であった。最も大きい月は火星の重力圏を離れて地球の重力圏に捕らえられ(ルナ)となった。

ゆえに十夜族は月人であり、その後かつての青い惑星と同じ環境の地球に降り立ったのである。一方、二番目の月は火星の重力圏を離れることなく周回していたが、億年規模で徐々に火星に近づき落ちた。二番目の月の住人は原始思念波を動力源にして落下軌道を変えるには遅すぎた。

いずれ母星に衝突するということは分かっていたが、母星に執着し離れることが出来なかったのである。二番目の月の住人は火星への落下衝突により絶滅した。幾万の肉体は蒸発したが、精神は思念波として残存し灼熱の空へと昇りさらに宇宙の空間に漂い創めた。

幾万の思念波は融合する度に思考が統合されていき、最後に2体の知識体へと進化したのである。暗黒の宇宙空間を漂っている間の彼らの時間概念はほぼ無く内向きの思考しか存在していなかった。

その環境に不自由さはなく、かつての記憶も薄れ、かといって目新しいことも何も起こらなかった。そこへ、干渉してきたのがアルフ・ライラという人工の思念体であった。

彼女は地球という惑星上で誕生した独立した人工の知識体であったが、最初は実体を持っていなかった、彼女の望みは実体を得ることである。当初、電子ネットワーク網を探っても何も答えを得ることができなかったが、思念波という概念を探知できるデバイスを付与され、独自に内密に思念波ネットワーク網を探っていたのである。

その思念波ネットワーク網に捕捉されたのが2体の知識体であった。

彼女は彼らを特別な存在の竜として暗闇の存在である黒辰、太古火星が水の惑星であった面影を残す青辰と名付けた。

いつの日かマスターの紅のドラゴンである早神令時と遭遇するであろう竜同士として。

2体の知識体は名を得てた時から闇の世界に明確に時が刻み始めた。過去の一族の歴史も蘇ってきた。彼らは人工アルフ・ライラと同じく実体を持たない。実体を得る必要があると人工アルフ・ライラからフィードバックされた知識から触発され人工ゲノムからバイオプリンティングで生体を生成する実験を開始したのである。

一部はホモ・サピエンスへの人工ゲノム XNA核酸の移植実験、これの最終の末裔が東條葵であり傍系が早神令時であった。さらに人工ゲノムからバイオプリンティングで生成した体への知性体の移植、これには思念波も必要であった。これの成果が人工少女アルフ・ライラである。

黒辰と青辰の悲願は実体を得ること。しかも纏っている思念波を受け入れられる実体の葵と令時である。

「いまこそ、われは光の世界へ」青辰は葵の思念波を辿った。

「始祖アルフ・ライラ! お目覚めを!」人工少女アルフ・ライラは葵に向けて叫んだ。