時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第96話:青辰と黒辰

 暗黒の部屋から漏れ出した思念波は、現実の部屋に充満するとと共に、ドラゴンが二匹出現した。

ドラゴンと総称されているがキトラは黄「龍」であり、早神令時は紅「竜」であった。やつらは青「辰」、黒「辰」である。

 今いる部屋はもはや暗黒の部屋なのか地下の研究室なのか分からないぐらい空間は混沌としていた。

いつもは我関せずと傍観していたキトラが問答無用で襲い掛かっていた。全力のキトラを見るのは初めてである。

 黄龍のキトラと対峙したのは青辰であるが、青辰は軽くキトラをいなした。

「我々が用があるのは、そこの十夜族の末裔だ。差し出せ」後ろに控えていた黒辰が言った。

「その必要はございません。マスター、やつらを始末して暗黒の部屋を消滅させれば時空連環も消滅できます」少女AIアルフ・ライラが前に出た。

「そこをどけ、お前にもはや用はない。我々は十夜族の末裔の純粋なゼノ核酸XNAを手にいれてこの世界に君臨する」青辰が応答した。

 紅「竜」である紅のドラゴンは空間の制約を外れ本来の大きさの10m級の巨体に戻っていた。

 黄龍のキトラは青辰に向けて暴炎暴風を吐いた。焔がトルネードに巻き込まれ周囲の圧縮された酸素を取り込み金属も溶かすほどの高温になっていた。皆が本気のキトラを見たのはこのとき初めてである。

 オレンジから蒼白い色に変化した焔は靑辰の全身を包みこんでいた。蒼白い炎の中に、水龍の影が見えたと同時に水蒸気爆発が起こり炎は一瞬で消え去り靑辰が姿を現した。

「全く効かないな。我の元故郷の火星の衛星では水はほぼ皆無。だが我の属性は水である。母星の水全てを吸収してこの力を得た。ここ地球にはありえないほどの水が存在する。この湿った空間においても水が存在するからな」そう言いながら暴速暴風の超高速の水を放った。水は圧縮されカッターとなり回転しキトラへと向った。

「キトラ、下がれ!」

 最初、暗黒の部屋から俺に放たれた光線は光ではなくて、極限まで圧縮されたウォータージェットだ。それが高速で煌めきながら移動しビームのように見えたのだ。そのビームがさらに回転しキトラの胸に迫っていた。

「どけ、キトラ! お前の鱗では受け切れない」俺はキトラを押しのけた。

 ウォータージェットは紅のドラゴンのクレナザイト製の紅の鱗によって止められた。生身の時とは違いウォータージェットのビームは貫通せず、水滴となり霧散した。

「紅竜、いや早神令時。じゃまだそこをどけ。退くなら今後のことも考えよう。十夜族の末裔を差し出すのだ」青辰は黄龍キトラを無視して言った。

「お前たちが太古の時代から知性体をゼノ核酸XNAを組み込み、生体を改変してきたのだな。思いどおりの方向には行かなかったようだが。

 ここで、引導を渡してやるよ。永遠に闇に落ちな!」俺は『龍神風のブレス』を青辰とその後ろの黒辰に吐いた。

 口から吐き出された暴風は青辰によって水蒸気爆発し舞い上がった水滴を巻き込み、紫色の落雷が暴風の中を駆け巡り、青辰に向かった。紫色の落雷は、青辰に落ちず黒辰に落ちた。

 黒辰が青辰を庇ったのである。全身黒の鱗を纏った竜種のドラゴンであり、落雷は効果が全くなかった。

「紅竜、今一度言うぞ。退き十夜族の末裔を差し出せばそれで良い。そこの娘を差し出せ」黒竜は東條葵を指さしながら言った。

「十夜族の末裔の末裔が、葵? 何を言っている」

 俺は反射的に葵を庇いながら言った。