時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第54話:九条博士のビートル・バスターズ その2(攻防)

 美香の運転で、烏丸御池の交差点に向かった。研究所からさほど遠くない。

 改造バンに乗り込んだ九条博士は、天井に吹き矢を向けて座っている。

 美香は、バックミラーを覗きながら苦笑した。いつもの子供のような九条博士だった。

 彼の研究には昆虫採集がつきものであるが、意気揚々として出かけていくのであった。

「博士、背中のバッテリーは下されたほうがよろしいのでは?」

「いや、これでいい」

「南の上空にドローンを自動追従モードで飛ばせ!」

「はい」

 車載の大型モニターには南の空が映し出されていた。スカラベがリージョン2からここリージョン1に飛んで来るには、15分で来れる距離である。体長10mのスカラベならモニターに映っても良いはずだが、捕捉できなかった。スカラベは雲の上を飛んでいた。

「雲の上に誘導してくれ、コントロールは全て、早神殿のところのAI幻影(AIファントム)にまかせろ」

 美香が、制御権限をAI幻影(AIファントム)に移譲した途端、ドローンは急上昇して雲の中へと消えていった。

 車載大型モニターには、レンズに付着した雨粒が風圧で流れていく様が映ったかと思うと、突然視界が広がった青空の映像が映る。南方には透き通った虹色の羽を持った、銀色の反射光をまとった物体が映っていた。

 スカラベを捕捉したのである。

 美香はいつものように、捕捉物に指標レーザ光を連動させた。どんな小さな虫でも一度でも捕捉さえできればずっと、指標レーザ光がその方法を指し示す便利な物である。

 今回は、体長10mの虫だ、的を外す懸念は全く無用だ。後は博士に吹き矢の腕前次第であった。

「一矢、撃ってみようか」

「まさか、届きませんよ。まだ1000メートルあります。まだですよ!」

「そうだな、もう少し引き寄せるか。この魔弾アンプル試作品の威力は不明だからな」

 リージョン1の烏丸御池交差点脇に先に到着し、博士はオープンされた天井から

 指標レーザ光に平行に合わせ、吹き矢を向けて、タイミングを見計らう。

「博士! スカラベに捕捉されました。一直線でこちらに降下してきています」

「そうか、ここだな」

 吹き矢から魔弾を撃った。意思があるかのように魔弾は緑の光を引きながら、指標レーザ光線に沿ってうねりながら、

 上昇していった。時々その先端から青白い閃光を放っていた。

 スカラベの虹色の翅が高速にすり合わされた、衝撃波がこちらに向かうのがモニターに映しだされた。

「美香、後退だ!」

「はい」

 緑の光、青白い閃光が雲の中へと突き進むのと相対して、金白色の雷光がこちらに向かってきていた。

 金白色の雷光は烏丸御池交差点脇のリージョン1の銀杏の大木に落ち、根本をえぐって地下にも伝わっていった。

 一発目の魔弾は、衝撃波で目標が反れたようであった。

 頭上の空には、すでに10mの黒い塊が視認できるまで接近していた。

「このままではまずい。あの姿が目撃されてしまう。この場所は放棄する」

 九条博士はバッテリーを最高出力に調整して、もう一発、魔弾をスカラベに向けて放出した。

 今度は指標レーザに頼らず目視できるほどの距離である。

 二発目の魔弾を撃つ。先ほどよりも緑の光は閃光となり、先端からは青白い閃光が発っせられ雲中のスカラベに命中したかのように見えた。

「脱出する。これで少しでも時間が稼げただろう」