時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第55話:プラチナ甲虫スカラベの思考

あのような巨大な10mを越える昆虫は、この2028年には一般には知られていない。

しかし、中国では軍事研究機関でDNAを人工的なゼノ核酸で置き換えると、生物が10m級に巨大化することを知っている。

九条博士はそれを弟子の李神美(リ・シェンメイ)から聞いていた。

それゆえ、あの成都で捕獲したゼノ核酸体であるボス黒紫の飛蝗を欲しがったのだ。

ゼノ核酸体は昆虫だけでなく、早神令時殿が呼び寄せた十夜族の十三夜(つきみ)も人型であるが、ゼノ核酸体である。これは早神令時も一部の器官がゼノ核酸体である。

しかも変幻ができて特殊な能力を備えているのである。変幻は縮小または巨大化であった。

彼は、生まれた時からそうなのか、あるいは未来世に転移したことによる影響なのかは不明である。

「追って来ないな。南に飛び去ったようだ。このまま我々もリジョン3に向ってくれ」

「博士、時間稼ぎが出来たので、これ以上深追いはしない方がよろしいのでは?」

「いや、あのプラチナ甲虫スカラベは捕獲しなければ。ボス黒紫の飛蝗よりもはるかに価値がある。

早神殿の未来世への転移の研究にも役に立つはず」

「でも、ボス黒紫の飛蝗って大型で危険過ぎます」美香はため息をつきながら言った。

今まで博士が”捕獲”と言い出だしたらどんなに危険な場所、状況で止めても聞かないのであった。

「儂も1万年後の未来世に行ってみたいものだ」

「それは、無理ですわ、ゼノ核酸体ではありませんもの」

「そうだな……」

キキッ、やつらもあの令位守護者の早神の仲間か。同じ発射物を使ってたが威力は弱いな。

しかしやっかいだ、あの発射物に入っている翡翠の粒子が翅にまとわりついて、振動波が上手く繰りだせない。

 後は残りの1箇所を破壊すれば、未来世は安泰か。いやそれだと時間稼ぎにしかならない、令位守護者も葬り去らなければ……

 プラチナ甲虫スカラベは、この時代に来て違和感を覚えていた。

 昆虫族の体が太古に栄えたころよりも更に小さくなり、異様に小さいことである。

 最弱なのである。かといってその総数は数えきれないほどである。

 我の世界では、ほぼ全個体が把握できるレベルの数で限られているが、人類、十夜族とは拮抗した勢力だ。

 この世界の個体数を得ることができたら我の世界では最強になれるだろうに。

 雲が晴れたようだな。あれが、この時代の白塔なのか。

 確か早神の思念波から音訳するとここはキョウトというフレーズか。

 未来も今も同じだな。ただ何も塔からは感じることができない。象徴でしかないようだ。

 思念波が気薄すぎる、というか偏りを感じる。早く元の時代に戻りたいものだ。

 はるか前方に見たこともない個体が飛んでいる。

 しかし、思念波が感じられない。大きさは我と同じぐらいか。おかしい空を飛べるものは、十夜族の一部か昆虫族のみである。翅を回転させながら飛ぶ方法も見たことがない。

 この時代のものは余計な接触は避けて観察が必要だ。

 プラチナ甲虫スカラベは更に高度を上げて、誰にも知られず南の更に南に飛翔した。

 最後の場所へと。

「おい、ずっと前方に何か、コガネムシのような物が飛んでいたけど」

「何、言ってるんだよ。その距離だと相当巨大なことになる」

「そうだよな、錯覚だよな……」

甲虫スカラベは、プラチナの外翅で太陽の光と溶け込んでいた。

目視では捕捉は困難である。