時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第56話:十三夜とプラチナ甲虫スカラベ

 十三夜(つきみ)は、令時から葵と合流してリージョン3に向かうように言われていたが、それでは、間に合わないと判断して単独でリージョン2から3へ向かうことにした。

 かつて、いや未来世においてリージョン2は水度集落跡地であり、リージョン3は山城の地下迷宮である。

 最短の飛行ルートは経験済みである。

 単独で先に行くことにしたのは、実は葵の判断であった。

 十夜族の十三夜(つきみ)は令時の指示しか聞かないが、令時のアシスタントをしている唐條葵は別格である。

 葵は未来世で一時的に千夜一夜(アルフ・ライラ)の魂に憑依されて、十夜族の始祖となったことがある。始祖の言葉は絶対だ。令位守護者の早神令時よりも優先される。

 未来世の山城の地下迷宮で見た葵(千夜一夜(アルフ・ライラ))は神々しかった。

 葵も今、リージョン3へ向かっている。またあの千夜一夜(アルフ・ライラ)に拝謁できるであろうか。

 もし、御目通りができるのなら叶えて欲しい願いが十三夜(つきみ)にはあった。

「あら、いつのまにか高度を上げスギタわ。あれが甲虫王のコドモのスカラベか。

リージョン3への方向とは少しズレているような。見慣れない空飛ぶ機械も同じ高度を飛んでる。

後方眼下を移動している車はレイジだ! スカラベの方が先行している。仕掛けてミルか」

 十三夜(つきみ)は、さらに高度上げプラチナ甲虫スカラベへ向けて螺旋を描きながら急降下を始めた。

 体格差は十三夜(つきみ)は蜂妖精女王形態で20cm、方やスカラベは10mを越えている。

 姉たちとは違って十三夜(つきみ)には強力な武器がなかった、それゆえいつも先行偵察の役割を

 担っていたのである。それをいつも歯がゆく思っていたのである。

 偵察だけではなく、直接的にレイジの役に立ちたいという思いである。

 降下するにつれて回転数も上がっていく。ガラス様の硬質の翅が太陽の光を虹色に分光する。

 スカラベへの接触まで後、わずか。

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「なあ、あれは何かな。虹色の光の明滅が見えるのだが。しかもその周期が早くなってきている」

「今度は何さ、さっきからわけの分からないこと言ってるけど」

「そうだよな、錯覚だよな……」ヘリコプターのパイロットが言った。

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 高速回転でプラチナ甲虫スカラベの翅を突き抜けた十三夜(つきみ)は、それから急旋回してスカラベの視界から消えた。

「やったワ、あいつの翅に損傷を与えた。これでうまく飛べないはず。レイジの方が早くつけるはず。

ワタシの翅はあいつよりもさらに硬質なんだ」十三夜(つきみ)は初めて自分の翅が誇らしく思った。

スカラベは、高度を下げながらリージョン3への方向から更にずれて森の方向へとふらつきながら落ちていくようだった。

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「やっぱり、絶対おかしい。錯覚ではない。ほらさっき見失った巨大なコガネムシが森の方に飛行している!」

「お~、あれか。お前の見たやつは。確かにコガネムシのようなシルエットだな。」

「最新型のドローン機なのか?」

「いや、聞いたことがない。管制室にコールしてくれ」

「了解」

通信士「こちらオスカー02。我々の機体前方より南へ高度を下げていく機体はありましたか?」

管制官「ありません」

通信士「もう一度聞きます。シルエットからドローン機と思われますが、ありませんか?」

管制官「その方面でレーダに捕捉されている機はあなたのオスカー02機のみです」

通信士「了解」

「機長、未確認飛行物体です」

「録画はしてあるな」

「はい」

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 巨大なコガネムシが森に着地した。一方、令時はリージョン3:山城の地下迷宮の入口に到達した。

 そう正面入り口ではなく、大型特殊装置を搬入できる専用入口である。プラチナ甲虫スカラベが地下に侵入するにはここしかない。ここで迎え打つことになる。