時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第57話:追憶

令時は、未来世の1万年後のこの山城の地下迷宮の入口から侵入して、地下七階まで葵を助けにいき、そこでこ甲虫王の黄金スカラベと対峙した。

千夜一夜(アルフ・ライラ)の魂に憑依された葵の持つ『時空の神宝』と令時の持つ『反時空の神宝』を合わせることで時空位相の連環を対消滅させることができた。

その場所から脱出し、現世も戻れたのは三年前である。

現世に一緒に来れた十夜族は、不死鳥フェニックスの十七夜(かなき)と蜂妖精女王の十三夜(つきみ)である。

なぜ彼らがこの時代に来れて、十六夜(いざよい)十五夜(かぐや)は来ることが出来なかったのか。それは、いまだ不明であった。

予想外は、甲虫王の黄金スカラベの子であるプラチナ甲虫スカラベが明確な使命を持ってこの時代に来たのである。

未来の昆虫の覇権を確固たるものとするため、時空位相の連環は維持されなければならないのである。

その為には、連環を対消滅させた令時を抹殺しなければならない。

昆虫界で、フィボナッチ数列の年単位で発生する時空位相の連環が何を意味するかは理解はできない。

今後、解明することができるだろうか?

別の生命系統樹から派生した十夜族も然りである。千夜一夜(アルフ・ライラ)を始祖とする彼らもまた、時空位相の連環の秘術は必要である。

地球の生命系統樹から派生したホモ・サピエンスである人族にとって「時空位相の連環」は全く不要なものである。

この地球上で未知の存在が、何かの実験をしているのか?

それとも、別の生命系統樹の世界が地球上で輻輳しているのか?

北の空で天上から虹色にキラキラ光る物体が、黒い物体を突き抜け、こちらに向かっているのが見えた。

「あの急降下回転の光は十三夜(つきみ)だな。ということは黒い物はプラチナ甲虫スカラベか。無茶しやがって。でも、おかけでこちらが先に準備ができた」

「レイジ、観てたカ。ワタシのアタック」

「ああ、すばらしかった。十三夜(つきみ)の翅の硬度は十五夜(かぐや)の角と同じぐらい硬いかもしれないな。けど単独行動はやめてくれよ。心配になる」

「フフ、葵から許可はモラッタ」

十三夜(つきみ)は、俺の頭の周囲を何周もした。褒められた時の十三夜(つきみ)の行動である。

「蜂妖精女王のままの状態でいてくれるか。人型に戻ったら再度変幻するのにこの世界では思念波の密度が薄すぎるので時間がかかる」

「ワカッタ。あいつの翅を突き抜けるときに、蛍胞子が取り付いているのをカクニンしたワ」

「そうか、傷口がないから体内には入れないようだな。やつはここから西の森に落下したようだな」

「あいつの翅を突き破ったから飛行が不安定になって、森の方に落下したけど、わざとそちらにいった感じがスル」

十三夜(つきみ)の言う通り、何か怪しい。

葵はこちらに向かってきているし、京都の事務所は誰もいないか。

「AIアルフ・ライラ、自位置からすぐ西の森を調査してくれ」

「承知致しました」車載コンソールに繋がれた大型投影モニターにAIアルフ・ライラが映し出された。

最近、AIアルフ・ライラには自我が芽生えて兆候があり、AIアルフ・ライラが自信のアバターを作り出していた。表情も作り出せるらしい。

アバターは、女性型だった。基礎情報はあきらかに俺の記憶からのベースだ。なんかやりにくい。

声も俺の記憶に鮮明に残っている声だった。昔FMラジオ放送された「2001年宇宙の旅」の人工知能HAL9000の女性の声である。

AIアルフ・ライラは俺の脳内記憶から情報を最優先で採用していることはこれで明白だ。

まあ、それもよしとするか。今後どれぐらい自我が進化するか見ものだな。

「レイジ、また何か考えているナ」

「あ、そうだった。西の森の過去から現在まので地形情報をAIアルフ・ライラに調査依頼したところだ」

「あ、この子が仮想アバターのAIアルフ・ライラか……」