時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第76話:黒い雲の統率者との接触(後)

 大陸中央の谷からの風で、山頂はシルクのような幾筋もの雪が舞い上がっていた。

 シルクの帯筋は太陽光で彩雲のように虹色に輝いている。ただその先端には、黒い帯がまとわりついていた。

 山脈の西側に退避している飛蝗の一群が流されて来ているようである。

 我々の飛翔混成部隊は、はぐれた飛蝗の一群を無視して、各個体が判別できるところまで接近していた。

 さすがに体長10m級の巨大飛蝗である。それが群れを成しているのだから見ただけでも悪寒がする様である。

 作戦は既に進行されている、黄龍キトラは単独で上空へと離脱していたのであった。

 雪の帯筋を通して龍の姿をした影が見えた時、そこから谷からの風を押し返すはどの風圧がやってきた。黄龍キトラの麒麟暴風である。

 虹色の彩雲は揺らぎ、一瞬ブルーのみの光となりやがて消えていった。

 氷河を巻き込みながら飛蝗の黒い帯も谷へと押し返され、さらに群体の密集度が上がり黒くうごめいていた。

 俺は、十三夜(つきみ)と共に黄龍キトラに遅れて、上昇しさらに上空へと飛翔した。

「紅竜、早神令時殿いまだ」黄龍キトラが天に昇るかのように上昇し合図した。

「承知!」

 天空からまず、蜂妖精女王十三夜(つきみ)が急降下をはじめる。俺は十三夜(つきみ)が認識する目からの情報を取り込み、目標をロックオンするのだ。

 紅のドラゴンである自身の体を回転しながら急降下を始める、更に高回転しているが目標は固定されている。十三夜(つきみ)が視点誘導しているのだ。

十三夜(つきみ)、離脱しろ!」

「ワカッタ」

 俺は『龍神風のブレス』を地上に向けて吐いた。

 高速回転した口から吐き出された暴風は周囲の舞い上がった雪、氷河の欠片を巻き込み、紫色の落雷が暴風の中を駆け巡り、全てを引きちぎり火も発生していた。さながら太古に生物が発生した時代のような風景だった。

 この中で生き残れるものがいるのかと思われるほどの荒れ狂いようであった。

 見渡す範囲では、残存した飛蝗はいるがもはや群体を形成していない。およそ直径500kmもあったのに。

「凄まじいの」紅のドラゴンに乗っていた十六夜(いざよい)は人型から漆黒の狼に戻っていた。高速回転、さらに急降下では人型ではもたなかった。

「ヤッタのか?」離脱した十三夜(つきみ)が戻って来た。

 レフアルは、ひとりいや一匹だけ山頂の東側の窪みで待機していた。黒い雲の統率者を見つけるためである。

「ギギ、最初の暴風は耐えられたが二度目の暴風は桁が違う、地中深く潜らないと巻き込まれるところだ。

 紅のドラゴンはやばい。こんなやつと戦ってのか俺は。さて統率者はどうなった?」レフアルは地上へ出て上空を見ながらひとり呟いた。

 谷底は雷で黒焦げた飛蝗の亡骸で埋め尽くされていた。その中で何かが光を反射していた。

 山頂にまで届く光である。

「ギギ、やつだ。周りを犠牲にして自分を保護したんだ。やつ単独だ」

 レフアルは本能的に1対1なら甲虫類である自分に勝ち目があると、統率者に向かって山脈を飛翔し一気に駆け下った。

「レアフル、マテ!」十三夜(つきみ)が疑似思念波を送ったが、レアフルはその指示よりも闘争心の方が勝ったようである。

「ギギ!」

「ショウガないな。勝手にしな。お手並み拝見とイウトコロかな」

 レフアルは統率者に疑似思念波を送った。

「ギギ。昆虫族の支配者は太古より我の甲虫族である」

「ふん、そんなものお前がそう思ってきただけだ」統率者からの応答があった。