時空の神宝 Ⅱ ~時を越えたシンクロニシティ― for 少女十六夜~ 作者:苗場翔
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第78話:黒い雲の統率者との攻防 その1

上空には紅のドラゴンの『龍神風のブレス』から免れた飛蝗の群体はまだうごめいていたが、山すそ沿いにあった永久凍土は『龍神風のブレス』によって吹き飛ばされ、地肌がむき出しになっている。

周囲の飛蝗の群体もろとも、氷の破片と共に押しやったのである。

周囲の複雑な起伏を無視して麓の五色に輝いている湖まで一直線に道が開けていた。

レアフルはその道の上すれすれを翅を羽ばたく必要もなく、グライダーの様に飛翔し高速で下っていった。

「ギギ、湖まで後少し、まってろよ飛蝗の統率者のやろう。支配者は甲虫族であることを思い知らせてやる」

五色湖の湖面はオレンジ、赤、青、黄、紫に周期的に色が変化していた。太陽光線の具合にもよるが、湖面に円状に波紋が波立っているようだった。

湖面の中心に統率者が陣取っており翅を震わせ衝撃波を放出しているようである。

レアフルは湖面に近づくにつれ押し返されるような感覚を受けていた。レアフル自身の技である衝撃波の放出と同じ類であった。

「手こずっているミタイダネ、レアフル。あの衝撃波を止めてアゲルヨ」十三夜(つきみ)は上空から観ていた。

十三夜(つきみ)は上空から回転しながら垂直降下し、高速回転で五色湖の湖面中央に突っ込んでいった。

十三夜(つきみ)の軌跡はキラキラと光りながら金色の糸を引いていた。

ガラス様の翅が高速回転し、太陽光を散乱しているのである。

十三夜(つきみ)、視点を固定してくれ。俺の脳では高速回転の映像処理が追い付かない」俺は十三夜(つきみ)に思念波を送った。

十三夜(つきみ)と遠隔で映像を共有すると目を閉じてもその映像が脳内で処理されるため、拒否ができないのである。

十三夜(つきみ)に回転周期に合わせて、その時の静止映像を送ってもらうしかないのである。

昆虫形態であれば、いくら回転しても目標はロックオンできて、いずれその場所に到達できるらしい。

 人間である我々には理解できないことである。

 これについて、ふと考えたことがある。蝶はなぜにあんなにふらふらと飛んでいるのに何処とも無く目的の花に飛んでいけるのだろうかと。

 もしかして、脳内で直線に飛んでいるかのように映像を間引いているのかと。

 いや、今そんなことは考える必要もないか……

「レイジ、これでどうかな。見える?」

「ああ、少し揺れているが、大丈夫だ。そのままやつの翅を射抜いたら、躊躇なく離脱してくれ」

「ワカッタ」

 十三夜(つきみ)の目を通して、レアフルが五色湖の湖面の端に到達したのが見えた。

 ただ、そこから中央には衝撃波に妨げられて、思うように進めないでいるようだった。

 天上から湖面中央へ金色の光の糸が到達し、その糸は湖面を急転回し離れていった。

 それまで、湖面は五色に変化していたが、乳白色から青色の固定色になっていた。

 衝撃波が止まったのである。十三夜(つきみ)が翅を射抜いた証だ。20m級の大型飛蝗である統率者にたいして、蜂妖精女王形態の十三夜(つきみ)は体長20cmしかないが、翅にピンポイントに穴を開けることで十分な効果を発揮できる。

 統率者の翅の振動のバランスが微妙に崩れたのである。十分だった。

「ヤッタヨ、レイジ!」

「よくやった直ぐにその場から離れてくれ。レアフルが突っ込んでくる。後はまかせろ」

「ワカッタ」十三夜(つきみ)は満足した思念波発した。それは俺だけではなくて

 レアフルに対しでもある。さあ、レアフルやって見ろという感情が乗っていた。